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神戸山口組「五輪期間中の銃弾」真意――山健組若頭“二度目”襲撃事件の闇

住宅街で鳴った発砲音は、その乾いた音とは対照的に物々しい事態を招いた。夏の穏やかな午前中には似つかわしくない上、〝休戦中〟であるはずだった東京五輪の開催期間中に、あろうことか血が流れたのだ。

「テレビでオリンピックの中継を観てたら、バーン、バーンいうような音が聞こえた。まさか拳銃の音とは思わんかった」(近隣住民A)

8月5日の午前10時半ごろ、兵庫県神戸市兵庫区の住宅街で、神戸山口組(井上邦雄組長)傘下山健組の與則和若頭が何者かに自宅付近で狙われ、ケガを負う事件が発生した。

当日、同じ山健組の直参が車で迎えに来ており、與若頭は玄関を出て車に向かった。そこへスクーターに乗った人物が近づき、與若頭に狙いを定め拳銃を発砲。1発は外れ、もう1発は太ももの内側をかすった。

自宅は広い公園に隣接しており、犯人が玄関の出入りを確認するには十分な視野があった。與若頭が姿を現すのを待っていた計画的な犯行といえ、犯人の執拗さも目撃されていたのだ。

「音が聞こえたもんやから何かと思って顔を出したら、軽自動車とスクーターの順に走り去って行くのが見えた」(近隣住民B)

軽自動車は迎えに来た山健組直参が運転し、襲撃された與若頭を乗せて、犯人から逃れるためにその場を離れたのだろう。犯人とみられるスクーターが、それに続いていたという状況からは、さらに危害を加えようとした意図がうかがえる。

「與若頭がその場で倒れんかったもんやから、犯人も手応えを得られず追撃しようとしたんやないか。単なる威嚇で拳銃使ったんなら、わざわざ追い掛けんやろ。弾を身体に当てようとしたんやと思うで。結局、深追いするとリスクも高くなるから、諦めたんやろが」(地元記者)

周到な犯行からも、犯人が〝強い意志〟を持って臨んだことが分かる。與若頭の住居はもともと神戸市内の別の場所だったが、一昨年以降に今回の事件のあった場所に移り住んでいたという。それを知るには、犯行前に尾行して突き止めた可能性もあるのだ。

さらに、目撃者の話では犯人は「茶色いダウンジャケット」を着ていたという。猛暑日が続いた中で、なぜ季節外れの厚着だったのか。

「逃走の時間稼ぎやったんちゃうか。目撃者がハッキリ覚えとるように、わざと目に付く格好をしておいて、犯行後にそのダウンを脱いで、特徴を消したかもしれん」(関西の組織関係者)

業界内では個人的トラブルを疑う声も…

複数の近隣住民も、組織関係者の自宅があることを認識していたという。

「いつもパトカーが何度も巡回していて、以前に『ヤクザの組長が住んでいる。何が起こるか分からないので気を付けて』と、お巡りさんから言われたんです。公園に子供が遊びに行くので、怖いなぁと思ってました」(近隣住民C)

「前に神戸で刺された事件があって、ニュースで顔を知っとったから、通りすがりに見たとき、あの人やと分かった」(近隣住民D)

事件が発覚した当初、ヤクザ業界内では対立する六代目山口組(司忍組長)による犯行との見方がされた。なぜならば、近隣住民も把握していたように、與若頭が襲撃されたのはこれで二度目だったからだ。

一昨年4月18日、神戸市内の春日野道商店街を飲食店従業員と歩いていた與若頭に、三代目弘道会(竹内照明会長=愛知)傘下の野内組系組員が背後から近づき、刃渡り21.4センチの包丁を複数回刺す事件が起きた。傷は最も深いもので約15センチ、肝臓に達するものもあり、出血量は3000㏄に及んだ。與若頭は出血性ショック状態に陥ったが、一命を取り留めたのだった。

実行犯の組員はのちに出頭して懲役11年、共謀が認定された運転手役の同じ野内組系組員にも同9年の実刑判決が下った(共に控訴)。

この刺傷事件の報復として、弘道会系組員への銃撃事件(一昨年8月21日)が起き、五代目山健組・中田浩司組長(兵庫神戸)が実行犯として逮捕、起訴された。さらに弘道会系組幹部によって、山健組本部そばで組員2名が射殺される事態(同10月10日)に発展。

相次ぐ事件の裏で神戸山口組内にも異変が生じ、昨年7月には中核組織である五代目山健組が脱退した。勾留中である中田組長が拘置所から決意表明したためで、山健組内でも混乱が起き、複数の直系組長は神戸山口組に残留。與若頭もその一人で、今回の事件は神戸側の山健組への〝警告〟とみられたのだ。

「事件の当事者には車で迎えに来ていた山健組直参も含まれますが、兵庫県警は犯行状況から犯人は與若頭のみを狙っていたとみており、被害者1名としました。県警も犯人の足取りを追っています」(全国紙社会部記者)

分裂後に起きた射殺、銃撃など主要な事件では、犯人が出頭もしくは現行犯逮捕されているが、今回の事件では逃走し、人物の特定すらされていない(本誌締め切り8月15日時点)。それもあってか、業界内では個人的トラブルを疑う声も上がった。

各組織“組員リスト”が流出

「山口組の分裂抗争で狙われたんなら、どこがやったいうのを知らしめるために、犯人はすぐ名乗り出たはずや。せやけど、逃げとるっちゅうのが分からん。しかも、神戸山口組・山健組の実質のトップは元満志郎組長代行や。二代目安部組(福岡)を率いて神戸山口組の若中やしな。山健組への揺さぶりやとしたら、なんで與若頭を狙ったんか…。

何より、世界が注目する東京オリンピックの期間中は、〝休戦〟いうんが暗黙の了解のはずや。六代目山口組かて、この時期に警察のメンツに関わるようなことはせえへんと思うけどな」(地元関係者)

兵庫県警は、抗争事件と個人的トラブルの両方を視野に入れているというが、五輪の最中に起きた銃撃とあって、80名態勢の捜査本部を設置した。

「県警は実行犯を1人とみていますが、被害者が捜査に協力的ではないため、詳しい状況把握に時間が掛かったようです。殺人未遂事件として捜査に乗り出しており、分裂抗争ではないとしても重要な時期に起きた事件ですから、県警の鼻息は荒いです」(前出・全国紙社会部記者)

抗争を経験したある九州の組織関係者は、こう話す。

「元満組長代行ではなく與若頭を狙ったのは、単にガードが手薄だったからではないか。個人的トラブルが原因だとしたら、タマまで奪ろうとはしないだろう。九州で起きた抗争でも、何度も同じ幹部が狙われたケースがあるから、今回の襲撃は神戸山口組へのプレッシャーだったとみている」

また、事件発生の約1週間前には、神戸山口組、五代目山健組、池田組(池田孝志組長=岡山)、絆會(織田絆誠会長)の〝組員リスト〟が業界内に出回った。

神戸山口組においては直系組長の体制のみならず、二代目宅見組(入江禎組長=大阪中央)、俠友会(寺岡修会長=兵庫淡路)、二代目西脇組(宮下和美組長=兵庫神戸)、山健組の在籍状況があり、五代目山健組に関しても保守本流である七代目健竜会の内部体制が、いずれも〈役職〉〈氏名〉〈組織名〉〈所在地〉を含め詳細に記されていたのだ。

「切り崩し状況に触れた部分もあったため、六代目側の関係者が作成したリストだと囁かれた。神戸側を脱退した組織も戻そうとしているのは間違いなく、分裂問題は終結に向けて、いよいよ大詰めに入ろうとしているのかもしれない」(業界ジャーナリスト)

しかし、神戸山口組を率いる井上組長の意志は変わらず、與若頭銃撃事件が六代目山口組による犯行であれば、さらに闘志を燃やす可能性すらある。間もなく丸6年となる分裂問題は、年々熾烈を極め、予想の付かない展開となった。

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