創価学会と総選挙“裏”《後編》深刻なデジタル格差~ジャーナリスト山田直樹

素の創価学会票は、いったいどれぐらいあるのか? 選挙結果、出口調査、政党支持率などをもとに、平成以来の選挙戦で推定してみると、約500~600万票という数字が出てくる。これは、参議院議員選挙比例区総得票数や衆議院選挙ブロック票合計数より100~150万票ほど少ない。

複数の創価学会関係者にあたると「その数字が『比例区は公明党へ』と呼びかけた自民党側からの〝協力票〟」という説明になる。この点が意外に見逃されており、公明党が挑んだ国政選挙の「総得票数」をもって、創価学会の実力と考えるのは、誤りなのだ。ありていに言うなら、その数字は「自民党支持者からの友好の証」たる協力票でゲタを履いた数字だから…。

仮に150万票を衆院小選挙区289で割ると、約5000強。もちろん、公明党候補者がいない選挙区での比例票限定の話である。これが公明党=創価学会選挙協力への〝御礼票〟だろうし、都道府県の首長選レベルでモノを言ってくる数字でもあるのだ。

「今まで以上、公明党票を伸ばすには自民党さんへの協力要請だけでは無理。あちらはあちらで、こちらの候補者がいない小選挙区では、平均して2~3万ある学会票をアテにする。そのコア票が減っているからこそ、個人後援会制度を推進しようというわけです。しかし、これまでそのバーターとして、自民党側が呑んでくれた公明党の要求が少なすぎる。国政ならまだしも、大阪の都構想など、相手が地域政党レベルなのに協力してしまう。すべての原因は、会員1人1人の布教力低下にある――と言われれば、残念ながら納得するしかない」(埼玉県創価学会地域幹部)

スマートフォンを使えない高齢の会員たち…

前回で触れた「公明党衆院選候補者、現職への個人後援会創設路線」には、学会反転攻勢の狙いが込められている。会員向けには複数候補の後援会に入り、SNSを使って小選挙区候補を支援すること…会員の内部活性化が目的だろう。

そしてもう1点は、知り合い(縁の近い、遠いは問わない)に直接面談ではなく、ネット経由で投票行動を依頼すること。そこへ持っていくために、後援会加入を呼びかける努力が求められる。

つまり、突然、玄関に現れて「お知り合いの○○さんの紹介で参りました」と切り出す面談型の投票依頼を、ネット化しようという外部アプローチ方式である。個別学会員には8月以降、この方式の説明が順次行われてきた。当然、スマートフォンを使えない高齢会員は、購入から操作方法まで若年層が手取り足取りしなければ、話は前へ進まない。

「スマホはいらない。電子版聖教新聞など読まない。池田(大作)先生は活字こそ命とおっしゃってる。そういう聖教新聞社のテレビCMを流しているじゃないか」という高齢会員の反発や居直りに、知己の青年部活動家は辟易している。

創価学会内部のデジタル格差は、まさに今の社会の縮図のようだ。ここに微妙な影を落とすのが、若年層の投票行動だ。18歳以上に選挙権が付与されてからの投票率と支持政党を見ていくと、以下の点が分かる。

  • 特に都市部で18~20歳までの投票率が4割強程度で、20~30代で落ち込み、高齢者で高くなる傾向がずっと続いている。
  • 世代別政党支持者と支持政党データでは、自民党が若年層と高齢者で高く、公明党の方が平均的。そして、無党派層の多くは投票先として自民党を選ぶ。
「公明党の議席を維持するためには、創価学会が若年層、つまり、ミレニアル世代以降の無党派層得票率を上げるべき」

同分析は公明党関係者、創価学会選挙担当者の複数からも、この数年幾度となく聞かされてきたセリフである。個人後援会制度を創設するのは、個人面談方式の代替というより〝デジタル布教者〟育成にこそ主たる狙いがありそうだ。

そして目下、公明党にとって剣が峰に当たる大阪の都構想住民投票への選挙なみの戦いがピークを迎えている(※11月1日投票が行われ、既に反対という結果が出ている)。先の創価学会地域幹部は維新という「地域政党」なる表現をしたが、こと関西に限って言えば維新こそ国政の自民党に相当する。昨年の統一地方選挙においては、関西では維新の1人勝ちに終始した。大阪府知事選、大阪市長選、地方議員選、衆議院議員の補欠選挙すべてにおいて完勝だった。

都構想で一枚岩ではなかった学会

「中途半端なかたちで、首長選に相乗りしてしまったのが公明党です。形式上、共産党との〝共闘〟にもなってしまうのに、自民党に引きずられる形で反維新の市長候補を推薦してしまった。そもそも、維新の大阪都構想に対して、公明党は煮え切らなかった。最初は『住民投票までは賛成するが、維新案には反対だ』というスタンス。それが地方選挙で敗退するや、『都構想賛成』に豹変。要するに、関西の衆院小選挙区で公明党候補を勝たせるための妥協です。見返りは、維新がその選挙区で候補者を立てないこと。こういうブレを果たして支援者は、是とするんでしょうか」(在阪の大手紙デスク)

実際、11月1日の投票はどうするのか。大阪府在住の創価学会員10名ほどに、意見を聞いてみた。

「住民投票は、1つの政策として捉えれば維新か反維新かは関係ありません。思うところを投票してよいという地域組織もあれば、上から賛成せよとキッチリ枠を嵌められているところもある。創価学会票が1つでまとまるとは思えない」(大正区の壮年部)

「4票という僅差で負けた(大阪)市議選のことを考えれば、国政が大事だからここで賛成に回れというのは、衆院選で維新が候補を立てたら負けると言っているのも同然です。常勝関西に泥を塗ることだ。公明党が賛成に回っても、創価学会は違う。それを示そうと仲間と連絡し合っている」(淀川区の青年部)

10月18日には、東京から山口那津男公明党代表らが駆け付け、なんばや梅田の大阪中枢で維新の吉村洋文府知事、松井一郎市長ともども街頭演説(説明会)を行った。公明党党首が自民党以外の政党トップと共に演説する光景自体が、それこそ〝あり得ない〟こと。その傍らで三色旗を掲げた学会員とおぼしき若者が、都構想反対のアピールを行う姿も――。

「住民投票に勝っても負けても、と両含みの戦術を取るのはかなり難しい。維新側は退路を断っているけれど、公明党サイドは山口氏が『都構想の実現に法的根拠を与える大都市地域特別区設置法について、国会で公明党が与野党の合意形成をリードし、2012年に成立した』とか、公明党が提案した住民サービス維持やコスト削減など4つの改善項目が反映されたから賛成しようと、自党の成果ばかりアピールする始末。山口氏の目線の先には、大阪府の創価学会員の説得しか見えていない印象でした」(同)

構想否定の選挙結果が出ても、おそらく菅首相は関西の公明党議員小選挙区に手は出すまい。維新とはその点で手打ちがなされたと思われる。

「つまり、創価学会自体にとっては、議席が減るわけではないから負けてもダメージは小さいだろう」(大阪府創価学会地域幹部)

今回、菅首相のカウンターパートとして、俄然、注目され始めた佐藤浩副会長の思考はあくまで国政である。

「創価学会反対派への対処、攻撃戦術など、実際に他から見れば〝汚れ仕事〟と言われる役割を担い、結果を出してきた。反学会派は、自身への攻撃の背後に佐藤氏の指示があると何度も指摘してきましたが、ウラは取りきれませんでした。つまり、尻尾を掴ませなかった。こうした経験があって、一点集中で菅首相を官房長時代から〝籠絡〟できたんではないですか」(学会ウオッチャー)

創価学会の選挙戦“ネット活用”によるリスク増

1991年に創価学会が日蓮正宗から破門されて以来、この人物の名前は何度も浮上した。日蓮正宗法主の「買春」を巡る裁判でも、黒い皮ジャンを身にまとい、手下(?)に耳打ちして指示を出すのを東京地裁で幾度か目にした。まるで親分そのものの姿である。小泉政権時代の話だから、その後、手腕を買われて厄介な対自民党政治家対策に起用されたと推測しうる。しかも、公明党を差し置いて首相と交渉できるポジションまで上り詰めた。

では、佐藤副会長が公明党に半ば「下命」した個人後援会方式とネット活用で学会票は維持、または拡大できるのか。言い換えれば、次期総選挙に勝てるのか。

先に述べた学会内情報格差や若年支持者の拡大停滞など、あまりにも問題は大きい。例えば、安倍前首相の総裁任期一杯(来年9月)まで菅首相が解散しなかった場合においても、創価学会票が現状維持できるかは五分五分だ。

それは「コロナ禍で失った顧客を元通り以上に戻せるか」という日本社会の課題と同等以上の重さが、宗教組織にはあるからだ。新宗教の大教団は今年、寄附収入を大幅に減らすだろう。創価学会とて、年末の財務が例年通り維持できるか疑問符がつく。

「選挙では、会員は持ち出しで行動します。そのお金は、表面上、ボランティアだから許されるのであって、組織から支給されたら選挙違反。そのお金を捻出できない会員は少なからずいる。外出を避けるポリシーのメンバーもいます。SNSの場合は、訪問と違い断られて拒否されたら、もうアプローチできないし、アプローチ自体が容易にバラされる可能性や『学会員のやり口』とかあげつらわれて、炎上することだってあり得ます。それがデジタルの怖いところ。会員内部ならまだしも、ネットで外に拡げるリスクは高いんです」

これは某IT企業に勤める学会員の吐露だ。彼は、SNSで個人後援会への勧誘をはじめてすぐ、自身が学会員であることが会社にバレた。外部からのネットタレコミが原因だった。

創価学会が選挙戦で抱えるリスクは相当高い。ただし、創価学会が選挙で勝つことが、今や自民党の「絶対国防圏」になりつつある点を付け加えておく。