日本郵便の契約社員たちが、正社員だけに与えられる手当や休暇が「不合理な格差」に当たると訴えた裁判で、10月15日に最高裁は待遇格差を「不合理」だと認める判決を下した。
最高裁が「格差は違法」と認めたのは、扶養手当、年末年始勤務手当、祝日給、有給の病気休暇、夏期冬期休暇の5つだ。最高裁は、契約更新を繰り返して長年働いている原告らにも、生活保障や福利厚生を図ることが必要だとして、非正規労働者に救済の道を開いた。
政府が掲げる「同一労働同一賃金」の実現に向けて、最高裁も動き出したかのように見えるが、事態は単純ではない。日本郵便訴訟判決のわずか2日前、最高裁が判決を下した2つの訴訟では、原告の非正規労働者たちが逆転敗訴しているのだ。大阪医科薬科大学の元アルバイトが賞与の給付を求めた訴訟と、東京メトロの子会社・メトロコマースの契約社員が退職金の給付を求めた訴訟だ。
賞与に関して最高裁は、「賞与には労務対価の後払いや功労報償のほかに、正社員確保などの趣旨がある」とし、退職金についても、「さまざまな部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して支給されるもの」として、非正規社員への支給を認めなかった。高裁レベルでは、賞与も退職金も一定額の支給を認めていたので、最高裁はそれをひっくり返して、「ゼロ査定」したことになる。
例えば、メトロコマースの契約社員の仕事は売店の販売員だ。確かに正社員は、欠勤が出たときに穴埋めをしたり、担当店舗を変更されたりする。しかし、大部分の仕事は契約社員と同じなのだ。もちろん、退職金の額に多少の差があるのは仕方がないかもしれないが、契約社員の退職金がゼロというのは、あまりに不合理なのではないか。
同一労働同一賃金“最大の壁”は給料本体
私は、最高裁が企業経営への影響を考えたのではないかと思う。手当や休暇の格差を是正しても、企業経営への影響は限定的だ。しかし、非正規社員に賞与や退職金を支払うことになったら、企業が莫大な人件費負担増を抱えてしまう。
実は、裁判になってもいないのだが、同一労働同一賃金に向けて最大の壁がある。給料本体だ。統計で見ると、時間あたりの賃金は、正社員と非正規社員の間に2倍の格差がある。この不合理にはまったく手がついていないのだ。
正社員と非正規社員の格差をなくすことは、不可能ではない。オランダでは、1982年に政労使で決めたワッセナー合意によって、雇用形態による賃金差別が一切禁止された。パートの労働時間が正社員の8割なら、パートの年収も正社員の8割ということにしたのだ。この合意以降、オランダでは男性のパートが急増し、そのことが事実上、労働力の流動化と労働者の副業増加をもたらして、オランダ経済は奇跡的な成長を遂げることになった。
なぜ、日本はそれができないのか。私は公務員の賃金を大企業の正社員に合わせていることが、一番の問題だと思う。この制度のもとで、公務員が自分の年収を増やそうと思ったら、大企業の正社員の給料を上げる政策をとればいい。非正規社員の給料を上げても、公務員の給料は上がらないからだ。今からでも遅くはない。非正規社員を含む平均給与に、公務員の給与を合わせるべきなのだ。
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