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『映画 太陽の子』/8月6日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

『映画 太陽の子』/8月6日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義 
Ⓒ2021 ELEVEN ARTS STUDIOS/「太陽の子」フィルムパートナーズ

『映画 太陽の子』
監督・脚本/黒崎博
出演/柳楽優弥、有村架純、三浦春馬、田中裕子、國村隼、イッセー尾形、山本晋也、ピーター・ストーメア
配給/イオンエンターテイメント

戦時中の新たな切り口として〝日本の原爆開発〟を軸に、日米合作で作られた本作。被爆国だけではなかった事実を新鮮な驚きとともに見ることができました。

戦争に翻弄されていく若者というのは、これまでもさまざまに描かれてきましたが、そういう側面は戦地に赴く三浦春馬でカバー。別の立場から戦争に翻弄されていく若き研究者がいたことを、エンドロールで映し出される本人たちのスチール写真で突きつけられます。米国とタッチの差ではなかったかもしれないのですが、「核爆弾を先に開発したものが世界の運命を決める」という開発戦争に、日本も参戦していたんですね。世界を滅ぼしかねないという恐ろしさに疑問を抱きつつも、純粋に研究者として突き進んでいく理想と狂気の軋轢が印象的でした。

専門性を伴う内容ですが自分のような原子物理学に全く無縁な観客にも、およそこういう仕組みで成り立つのだということを、教育科学映画のような画面で解説してくれるので理解の助けになりました。その点が、ただの情緒的な青春戦争映画では終わらない、本作の深みをもたらしているようにも思いました。

三浦春馬の役柄が彼自身の運命と重なって…

主演の柳楽優弥は、映画『誰も知らない』でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を最年少で獲って以来17年経ちますが、戦時中でも違和感のないこんな顔立ちの若者が、よく出てきてくれていたなと改めて感じ入る次第。一緒に見たカミさんとも話したんですが、名前はよく聞くものの、見分けがつかない若い俳優さんが多い中、別格の存在感を放っていますね。

弟役の三浦春馬は、「怖いよ。でも、俺だけが死なんわけにいかん」と葛藤を語りつつ、戦地に戻り早逝します。図らずも彼自身の運命と重なり、この役はその心理にどんな影響を与えていたのかと、見る方の心もザワつきます。そして、2人が想いを寄せる幼なじみ役の有村架純。1人だけ戦後の夢を語る女性の強さを健気に演じていました。

実は私の義理の母親が昭和20年の夏に体験した「日本縦断旅行」を、84歳の時に1冊の本にまとめました。戦火を逃れるために兄妹が郷里の鹿児島から遠く仙台まで行き、そこでも空襲に見舞われ、とんぼ帰りするまでの往復3600キロの旅の行程記録です。

義母は現在87歳ですが、当時は国民学校5年生の少女。架純ちゃんの設定と比べると幼いのですが、本作を見終わった後「お義母さんは逃れる中、戦争が終わったらどうしたいとか考えられていたんだろうか」という疑問が湧き起こりました。なかなか会えないのですが、義母が元気なうちに聞いておこうと思います。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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