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東京五輪の後の日本の景気は大失速…~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

東京オリンピック・パラリンピックが閉幕する9月以降、日本の景気は失速に向かうだろう。

政府は年内にコロナ前のGDP(国内総生産)水準を取り戻せる見通しを示しているが、それは不可能だ。新型コロナ収束の見通しが、まったく立っていないからだ。

東京都では、緊急事態宣言後の人出が減っていない。それどころか、日本経済新聞が繁華街の個人飲食店500店を調査したところ、5割超の店が時短要請に応じていなかった。オリンピックでお祭り騒ぎをしているのだから、自粛要請が受け入れられるはずがないのだ。

頼みの綱のワクチンについても、悲観的にならざるを得ない。菅義偉総理は7月23日、ファイザーのブーラCEOを東京・元赤坂の迎賓館に招き、国賓級のおもてなしをしたが、日本が要求するワクチン供給の前倒しや追加供給に対して、ブーラ氏はゼロ回答だった。

少なくとも年内は、感染が拡大することが確実で、そうなれば東京都の確保病床がパンクして医療崩壊が現実のものとなる。

こうした状況下で、政府がオリンピックを中止するという重い決断をすれば、国民も危機感を覚えたかもしれないが、菅総理はあっさりとオリンピック中止の可能性を否定してしまった。

その結果、政府は東京都のロックダウンなど、これまでの自粛要請よりずっと強い経済規制を求めてくるだろう。そうなれば景気が失速して、何とか緊急融資で資金繰りをつけてきた中小企業の経営は行き詰まる。そこで何が起きるのか。

銀行が“ハゲタカ”になる

今年5月、銀行法の改正案が国会で成立した。改正法では、これまで5%としてきた事業会社への出資上限を、地域経済に寄与する非上場企業に対しては100%とした。実はこの出資規制の緩和が、銀行を「ハゲタカ」に変身させるのだ。

いま、銀行が融資している中小企業のなかには、不動産をはじめとして豊富な資産を持っているところが多い。これまで銀行は、企業からの返済が滞ると、金利の減免や返済期間の延長などで対処してきたが、今後は融資先に「債務の株式化」を要求することになるだろう。

出資で経営権を握った銀行は、融資先の会社を「生体解剖」して、資産を片端から売却する。従業員のリストラを断行することで黒字転換した融資先企業自体も、最後に売り飛ばす。いままでハゲタカファンドがやってきたことを、これからは銀行がやるようになるのだ。

菅政権は、中小企業再編による生産性向上を経済政策の柱に据えている。生産性の低い中小企業を整理淘汰して、中小企業が抱えてきた資本や人材、市場を生産性の高い大企業に集約する。そうすれば、経済はV字回復する。そんな菅総理の描く経済社会改革の先兵を、低金利で経営が厳しくなった銀行が担っていくことになるだろう。

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