芸能

ワクチンをおごってくれた坂田利夫~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』

島田洋七
島田洋七 (C)週刊実話Web 

前回、島田洋八は3人目の相方と書きましたけど、漫才ブームが去った後に、間寛平とも1~2年だけコンビを組んだことがあるんです。漫才ブームのすぐ後だったから、漫才番組自体が少なくて、『花王名人劇場』くらいしかなかったんじゃないかな。

世間では『オレたちひょうきん族』などのバラエティー番組が人気の頃でした。寛平は、もともと友だちだから漫才で「ああせえ、こうせえ」とは言いにくい。だから短期間でコンビを解消したんです。でも、寛平みたいな芸人は見たことないでしょ。吉本新喜劇では、杖持って振り回して、「かいーの」とか好き勝手にやっている。誰にもマネできないし、俺もそんなこと考えつきもしない。

寛平のような世界で1人しかいない芸人は他に、坂田利夫さんがいます。「アホの坂田です」って自分で「アホ」ってギャグにしているもんね。舞台でも自由にボケる。裏では、『コメディNo.1』で坂田さんとコンビを組んでいた前田五郎さんがちゃんとネタを振っていて、しっかりしているものもありました。

坂田さんは俺にとって先輩に当たる人で、よく飲みに連れて行ってもらったり、ご飯をおごってもらったりしました。舞台とは違って、普段は紳士的ですよ。13年くらい前、「兄さん、インフルエンザの予防ワクチンを打ちに行きませんか?」と誘ったことがあるんです。坂田さんは「なんやそれ?」。「インフルエンザに罹らないように打ったほうがいいですよ」と説明すると、「じゃ、打ちに行こうか」と2人で病院へ行ってワクチン接種したんです。

なんでも先輩がおごるのが決まり

そして会計の際、坂田さんは病院の受付窓口で「チェックして」と、スナックや飲み屋のように俺の分も払おうとしたんです(笑)。吉本は、飲みに行っても、ご飯でもなんでも先輩がおごるのが決まりのようになっていますから。楽屋に戻ったら、坂田さんが芸人仲間に「洋七がインフルエンザワクチンを打ったほうがエエ言うから、ワクチンおごったったわ」と吹聴していました。昼飯やないねんとツッコみたくなりましたよ(笑)。

最近、「アホ」と言ったり、見た目をイジったりするのは世間の目が厳しいですね。しかし、俺は舞台に立った時、芸人はイジっていいと思っています。少なくとも舞台上でイジられるのはいいと考えている芸人がほとんどでしょう。

面白い顔をしている芸人は「面白い顔してるな」と言われて、お客さんにウケたら嬉しいんです。それに「お前もオモロい顔になったらエエやん。オモロい顔になるのは難しいで」とボケれるわけですよ。太っている芸人に「あんた痩せえ。豚みたいな格好して」とイジっても、「悪かったな、太ってて。あんたも太ってみい」と言い返せます。

舞台でそういうイジりをして、お客さんが笑うのはオモロいからです。日本人全員を納得させるネタなんて無理です。あれだけ面白い明石家さんまでさえ、「しゃべりすぎ」と批判的な人もいる。

芸人が舞台でネタをやるときに、相手をイジるのは許してほしい。そうじゃないと漫才にならないんです。最近の風潮に流されすぎて、面白味に欠けるところがありますから。

島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。

あわせて読みたい