
道尾秀介(みちお・しゅうすけ)
1975年、東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、10年『光媒の花』で山本周五郎賞、11年『月と蟹』で直木賞を受賞。『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫版)はミリオンセラーに。
――『龍神の雨』『風神の手』に続く最新作になります。そもそも〝神〟をテーマにしたのはなぜですか?
道尾 世の中の物事は複雑に絡み合っていて、誰かのほんの小さな行為が何か巨大な出来事につながってしまうこともあります。「バタフライ・エフェクト」と呼んだり「運命」と呼んだり、人によって捉え方は違いますが、僕はそれを「神」という言葉に象徴させました。そもそも「神様」とは何かと訊かれたら、ほとんどの人は答えられません。それは僕も同じで、今回の『雷神』は、登場人物たちを通じてその答えを探っていく作業でもありました。最後に主人公が見つけた答えが、僕の答えです。
――道尾ミステリー史上、最強の破壊力と評判です。執筆に多大な影響を受けたノンフィクション作品があったとか?
道尾 いろんな本から影響を受けています。『雷神』では主人公たちが身分を隠し、取材記者のふりをして寒村に潜入取材を試みますが、そのときの緊張感や恐怖感を書く際、高橋ユキさんの『つけびの村』を読んだときに伝わってきた生々しい感情が役に立ってくれたと思っています。
どんな物語でも核になるのは人間の感情
――さまざまな仕掛けやエピソードが終盤に絡み合い明らかになっていきます。普段どのようにストーリーを考えているのですか?
道尾 どんな物語でも核になるのは人間の感情なので、書く際に不可欠なのは「感情の種」です。例えば、人を殺したことはないけれど、殺したいと思ったことはある。人を助けたいと思って、助けられたことも、助けられなかったこともある。そうした実体験がみんな「感情の種」として残っていて、それを作品の中で大きくしていくイメージです。いろんな人と腹を割って付き合えていることが、物語をつくるのに役立っている実感があります。
「事実は小説より奇なり」という言葉を嫌う作家も多いんですが、「事実は小説より奇なり」をしっかりと認識していないと、事実を超える小説は書けないと思っています。
――今後の執筆予定を教えて下さい。
道尾 『雷神』では物語の後半に、これまで読者がよく知っているはずのアイテムが実際の画像として目の前に現れます。読者はそれを見て、事件の真相をすべて言い当てることも可能ですし、もちろん語り手にすべてを任せることもできます。ただ読むだけでなく、こうした「体験」を楽しんでもらえるように、いつも新しい仕組みを考えています。「小説って何でもできるんだ」と思ってもらえれば嬉しいですね。
(聞き手/程原ケン)