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品川ヒロシインタビュー~6年ぶり映画監督作『リスタート』公開記念

品川ヒロシ
品川ヒロシ(C)週刊実話Web

売れっ子お笑い芸人であり、作家や映画監督としても活躍する「品川庄司」の品川ヒロシさん。この7月に、自身6年ぶりにメガホンを取った映画『リスタート』が公開されている。

――本作はクラウドファンディングによって製作されましたが、目標金額を大きく上回って達成したとのことで!

品川「いやいや(笑)。(相方の)庄司(智春)や西野(亮廣/キングコング)、小杉(竜一/ブラックマヨネーズ)さんとかが支援して盛り上げてくれて、それに一般の方も乗っかってくれたってだけですよ」

――しかし、そういった吉本興業のプロジェクトに、真っ先に〝監督・品川ヒロシ〟が指名されるあたり、映画監督のポジションが確立された証しなのでは?

品川「まぁ、それなりに映画撮ってるやつで、吉本の言うことをちゃんと聞くのが僕だったということでしょう(笑)」

――のっけからすごく謙遜しますね! 本作は炎上して挫折した歌手志望の地下アイドルが、北海道・下川町で癒やされ再起するというストーリー。過去作の『ドロップ』や『漫才ギャング』と同様、自身の経験がモチーフになっていますか?

品川「やっぱり自分で書くものなので、どうしても自分の体験は作品に表れます。でも、ここまでの挫折はさすがに経験がない。ただ僕自身、挫折は1回じゃないから細かい挫折を集めて映画にまとめたかたちですね」

――その主演に抜擢されたのが、フォークデュオ『HONEBONE』のEMILY。まだまだ彼女は無名ですよね。

品川「歌の上手い女優さんを探してたところ、『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)というテレビ番組に出ていた彼女をたまたま見つけて。気になって調べてみたら歌声もすごく良かったんですが、それより惹かれたのが生き様。EMILYは『売れたい!』とか『悔しい!!』ということを口に出したり文章にするタイプで、ミュージシャンはカッコつける商売だから普通はそんなこと言わないけど、泥臭くそれが言えるところが面白いと思ったんです」

メッセージとして込めたかった部分

――作中ではスキャンダルで世間から好奇の目に晒されたり、SNSで炎上する主人公が描かれています。これは現代のキャンセルカルチャーに対するアンチテーゼを感じました。

品川「そうですね。芸能人って多かれ少なかれ、こういう経験を味わったことのない人はいないと思うんです。この映画だって『つまらない』『芸人が監督なんてするな』なんて批判する人は必ず出てくる。人気商売だからしょうがない部分もあるけど、やっぱりそこはメッセージとして込めたかった。まぁ、僕らの場合は喜んでくれる人もいるから救われるけど、(EMILYの演じた)未央は周囲に味方がいない。そんなときは地元に帰って家族や昔の仲間に会うのもいいんじゃないかって」

――品川さんも〝好感度低い芸人〟としていろいろ言われることもあるかと思いますが、撮影で訪れた下川町には癒やされました?

品川「現場に入れば集中しているからSNSなんて見ないじゃないですか。しかも、周りは大自然。叩かれてることなんて忘れますよ。映画の中でもスマホを放り投げるシーンがありましたけど、あれって究極。悪口を言われるのはスマホの中だけでしょ。だからこいつを捨ててしまえば全部解決! …まぁ、捨てられないんですけどね。仕事もあるし、告知もしたいから(笑)」

――現実には厳しいですね(笑)。物語には週刊誌の記者が主人公を追い詰める役で登場しますが、その仕事の葛藤も描いており、ただの悪役ではなかった。

品川「僕は車も自転車もどっちも乗るけど、車に乗っているときは『自転車が邪魔だな』と思う時もあるし、自転車に乗っているときは『危ない車だな』と思うこともある。結局、そういうことだと思うんです。僕が週刊誌の記者をやっていてのし上がろうとするなら、同じことをするかもしれない。そういう意味では記者の彼は、ある種のプロフェッショナリズムをもって描いてます。僕自身、ゴシップを追いかける週刊誌記者という仕事とは相いれないけど、理解はできます」

“こんな世界ならば消えちゃいたい”の心情

――では、週刊実話にも敵意はないんですね!?

品川「いやいや、ひどいこと書いてるなって思いますよ(笑)。でも僕らも遠くの人、例えばハリウッドスターがスキャンダルを起こせば、パーソナルな部分を知らないくせにテレビやツイッターで勝手なことを言う。だから書く人の気持ちも分かります。けど、やっぱり自分のことは腹が立つので、僕の悪口は書かないでください(笑)」

――気をつけます!(笑)。でも品川映画って、考えてみるとイヤなやつがそんなに出てきません。それは監督がそういう目で現実を見ていて、けっこう人間が好きなんじゃないかなと思うのですが。

品川「僕らの仕事は『この人、苦手だな』と思えば、その人と仕事をしなくてもいい。すると周囲に嫌いな人がほとんどいなくなる。だから、そういう作品になるのかもしれませんね」

――EMILYさんが歌う劇中歌『悲しいニュース』の中に、『こんな世界ならば消えちゃいたい』という歌詞が出てきます。この伏線にはグッとくるものがあったんですが、これは品川さんの心情も表しています?

品川「そうですね。死にたいとかは全然ないけど、打たれ強いとはいえ、SNSで叩かれればダメージはゼロじゃないから、この世界からいなくなって誰にも干渉されないで日々を送りたいと思うことはやっぱりあります。でも本当を言うと、『マンダロリアン』にハマって、アニメの『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』を見始めたら130話以上もある。『ロキ』も『全裸監督2』も配信された。そういう国内外の映画やドラマを単純にゆっくり見たいだけかも(笑)」

――今は多忙で、慌ただしく消化することになりますもんね。

品川「映画やドラマを見ていても、頭の片隅に『明日までにあの脚本書かなきゃ』とチラつきますね…。映画に集中したらしたで、『これ面白い! 今度こういう作品を撮りたい』や『俺だったら、ここのアクションでこの技入れるな』って考えちゃったり」

芸人と監督業のはざまで…

――完全に監督目線。ただ監督業が忙しすぎて、本職のお笑い芸人としての居場所がなくなる危機感は?

品川「確かに来月、ドラマのクランクインがあって、それで4カ月間スケジュールが埋まったりと、今は芸人と監督の仕事が逆転してますね。でも、そんなに見られているわけでもないYouTubeをやっていて気付いたんですけど、芸人として僕がしゃべって笑ってくれる人がいれば、相手は究極ひとりでもいいんだなって思うんです。映画を撮ればそれを宣伝するために人前に立って盛り上げたり、現場でピリつけばちょっと笑いを入れる。それも僕にとってはお笑いなので、わりと今は創作欲もお笑い欲も満たされてます」

――では、これからも監督として活躍を期待します! 今後、撮ってみたい題材は?

品川「なんでも撮りたい! ジェイソンやフレディみたいな殺人鬼が出てくるスプラッターホラーや、時代劇にも挑戦したい。この仕事を続けていくとバジェット(予算)が増えて大規模な作品が撮れるようになるのも嬉しい。実際、今度またバジェットの大きいお話もいただいてるんです。それは監督冥利に尽きる。でもね…」

――でも?

品川「今回みたいな規模の小さい、というと失礼だけど、青春の1ページみたいな映画の現場ってたぎるんです。『リスタート』の撮影期間は通常よりも短くて超ハード。スタッフも寝ないで頑張ってくれたどころか、クラウドファンディングに出資までしてくれた。役者陣は撮影が終わったらバイトに戻っていくような人ばっかり。大規模な映画をできるのは嬉しいけど、ここまで人もお金もスケジュールもシェイプアップされた状態でいい作品が作れると、結局、〝人〟なんだなって思わされました。なので、こういう映画はずっと撮り続けていきたい」

――やっぱり品川さんは、〝人が好き〟なんですね。

品川「そうですね。好きだと思います。でも人は僕のことをあんまり好きじゃないと思いますけど(笑)」

(文:武松佑季/企画:丸山剛史)

品川ヒロシ 1972年東京都出身。96年に東京NSC同期の庄司智春とお笑いコンビ『品川庄司』を結成。コンビとしてはしゃべくり漫才で活躍する一方、ひな壇芸人としても高い評価を受けている。また、『ドロップ』や『漫才ギャング』などの執筆活動や映画・映像作品の監督としての評価も高い。映画公式サイトは下記
https://restart.official-movie.com/

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