エンタメ

女優・加賀まりこ“勝負度胸満点のギャンブラー”~灘麻太郎『昭和麻雀群像伝』

加賀まりこ
加賀まりこ(C)週刊実話Web

高校在学中に篠田正浩と寺山修司に路上でスカウトされ、1960年にフジテレビ系ドラマ『東京タワーは知っている』に出演。松竹と5年間の新人契約を交わし、62年に『涙を、獅子のたて髪に』で映画デビューを果たす。

中尾彬、山本陽子らと共演した64年の主演映画『月曜日のユカ』(日活)は、加賀の代表作の1つ。その後は〝和製ブリジット・バルドー〟と呼ばれたルックスと、個性豊かな演技で人気女優となった。

数々のドラマ、映画に出演してきた加賀だが、ここで取り上げるなら、やはり84年の映画『麻雀放浪記』(東映)だろう。イラストレーターの和田誠による監督デビュー作で、自ら脚本も手がけている。

和田が脚本執筆中に描いていた登場人物のイメージと、実際のキャスティングを見比べてみると、ただ1人の例外を除いて一新されているのが分かる(カッコ内が実際の配役)。

坊や哲=新人(真田広之)
ドサ健=松田優作(鹿賀丈史)
まゆみ=田中裕子(大竹しのぶ)
ママ=加賀まりこ(加賀まりこ)
上州虎=小沢昭一(名古屋章)
出目徳=観世栄夫(高品格)

当初の構想ではドサ健が主役で、準主役となる坊や哲は新人オーディションで選ばれる予定だったが、松田優作が出演不可能となり脚本を書き改めた。そして、真田広之の坊や哲を主役に、モノクロ109分の作品が完成する。大幅に配役が入れ替わった中で、唯一変更されなかったのが「オックス・クラブ」のママ役に扮した加賀だった。

『麻雀放浪記』で魅せた極上のエロチシズム

加賀と和田は旧知の仲で、和田がある酒場で加賀と出会った折に、「素人監督がベテラン俳優に出演を交渉した場合、果たして乗ってくれるものだろうか」と尋ねたところ、「熱意さえ伝われば、巨匠も新人も関係ないわね」と励まされたという。結果的には、その言葉通り加賀の出演が決まったことになる。

加賀の役どころは全出演者の中で、ただ1人と言っていいほど華やかで、おしゃれな存在だったため、専属のスタイリストを配したらしい。加賀と真田は印象的な絡みが多く、坊や哲が〝初体験〟に挑むベッドシーンでは、年上の女性らしい細やかな一面を見せ、一方、哲の頬をたたく場面では本当に力いっぱい張っていた。

これは記憶に残るシーンとなったが、もう1つの見せ場は、哲に元禄積みというイカサマを伝授する場面である。加賀は10代の頃から麻雀に慣れ親しんできたが、ワンカットで撮るために何度も手が震えたという。彼女の肌の白さは際立っていて、牌を積む際に細い指先がしなやかに躍動するあたり、極上のエロチシズムを感じさせる。撮影当時は41歳だったが、とても40代とは思えない輝きを放っていた。

『麻雀放浪記』のちょうど20年前、加賀は64年に『乾いた花』(松竹)という映画に出演している。これは篠田正浩監督、石原慎太郎原作という異色作で、映画の中で彼女はやくざが開帳する賭場に出入りし、鮮やかな手さばきで花札をまいてみせた。

加賀は生来のギャンブル好きだから、麻雀牌を握っても花札をまいても、さすが絵になる。特に麻雀は60年近いキャリアがあり、相当な場数を踏んでいるから、勝負度胸が座っていて、なかなかしぶとい。

徹底した攻撃力で男どもをなで斬り

2004年に出版された加賀のエッセイ集『とんがって本気』(新潮社)には、〈つんのめるように生きてきた〉という半生が綴られている。

そこに〈保守的な生き方はバカを作ると思ってた。今だってそう思っている〉と書いているように、保守とは対極な人生を歩んできただけあって、彼女の麻雀は守りが二分程度、徹底した攻撃力で男どもをなで斬りにする打法なのだ。

日本プロ麻雀連盟の年間行事の1つに、『感謝祭』というイベントがある。連盟所属の男女プロと、いつもお世話になっている方々や業界の発展に努めてくれる企業の方々、さらに有名雀豪などを招待しての4回戦の闘いである。

ここでも加賀はレギュラーの1人で、よく顔を見せてくれており、プロもまっ青な打ち筋を披露している。南場2局、プラス2000点で2着の西家、荒正義九段がまずまずの状態で手をのばし、ドラ含みのテンパイにこぎ着けた。ペン七筒待ちの一盃口手を8巡目にリーチ。アガればトップに躍り出る。

対する加賀は、ドラ五萬が対子でタンヤオ七対子のイーシャンテン。六筒、七索、三索のどれかを引けばテンパイ。南家で3着だけにオリられない。9巡目に九索ツモで、通っていないがツモ切り。普通なら決め打ちの七対子のケースで、字牌や端牌を残す打ち手が多いが、あえて九索をそのまま切り出した。加賀はタンヤオ役もという計算で、こう打っているのだ。

次巡の六筒ツモでテンパイの加賀は、打三索と切り出して追っかけリーチ。ヤミテンでも満貫だが、一発、裏ドラが乗れば、ハネ満はおろか倍満にもなる。荒はツモ切りを続けておりアガれない。

13巡目、加賀が七索ツモでハネ満。プロ相手にがっぷり四つの勝負を挑み、そして勝ちきった。加賀の迫力あふれる一局は、今でも語り草になっている。

(文中敬称略)

加賀まりこ(かが・まりこ)
1943(昭和18)年12月11日生まれ。東京都出身。六本木族の元祖的存在で60年に女優デビュー。以後、奔放な言動でマスコミをにぎわせ、小悪魔的なキャラクターで男性ファンを魅了する。

灘麻太郎(なだ・あさたろう)
北海道札幌市出身。大学卒業後、北海道を皮切りに南は沖縄まで、7年間にわたり全国各地を麻雀放浪。その鋭い打ち筋から「カミソリ灘」の異名を持つ。第1期プロ名人位、第2期雀聖位をはじめ数々のタイトルを獲得。日本プロ麻雀連盟名誉会長。

あわせて読みたい