
タイトルはあくまで穏やかな本書。〝自分を鍛える最強の10冊〟と副題にも謳われてはいるが、ありがちな必読書ブックガイドの類いとは著しく様相を異にする。
古典から現代文学まで含むリスト中、恥ずかしながら筆者が過去に最初から最後まで読破し得たと言えるのがヘミングウェイの『移動祝祭日』と小林秀雄の『本居宣長』しかないゆえに、対象一点ずつへのがっぷり四つな読み解きぶりが新鮮だ。しかし何といってもエグいのは本の並びで『万葉集』の次にヒトラーの『わが闘争』を選べてしまえるのは著者ならでは。
この選択が可能なのは現在絶版なのが残念な『イデオロギーズ』(04年刊)において、かつてナチズムとハイデガーの問題を人類と高度技術文明との関係に重ねて論じ、「詩から逃れて、テクノロジーは存在しえるのか」「アウシュヴィッツ以降に抒情詩は存在しえないのではない。アウシュヴィッツは詩なのだ」と、恐るべき禁断の一句をものにしえた著者だからこそ。一面的なヒューマニズムが自明の理としてすべての倫理・道徳観を支配する現代の思想風土に対する最も過酷かつ辛辣な問いだろう。
今読むべきハードル高き名著
19世紀初頭、ナポレオン占領下のベルリンで哲学者のフィヒテが行った講演を基にした「ドイツ国民に告ぐ」が、いかにドイツ人の魂を鼓舞したか…は世界史の教科書で習った覚えはあれど、それからほぼ130年後に今度はナチスドイツに占領されたパリで、やはりフランス人の精神を奮起させるために刊行されたのが『ナポレオン言行録』だったとは歴史の痛切な皮肉で、とんと知らなんだ。
無限の屈託を抱えて死んだであろうスタンダールの代表作『赤と黒』など、中年を超えてから読むのにむしろ価値があるのでは?
(居島一平/芸人)
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