森田剛の“枯れた演技”に驚いた――42歳の漫画家アシスタントを描く『見上げてごらん』【やくみつるのシネマ小言主義 第306回】

机の上の修正液に見た、手描き漫画家の日常

そして、主役を演じる森田剛。アイドルから俳優に転身して、ずいぶん長いと思うのですが、こんな枯れた演技ができるんだと少し驚きました。漫画業界の人にいるんですよ。髪の毛を後ろで束ねて、顔色も健康的ではなくて、無精ひげが生えていて、背中を丸めて絵を描いている。細かい役作りがリアルでした。

また、自分の話に戻るんですが、よく聞く編集部への自作の持ち込みとか、編集の人が差し入れを持ってきてくれるとか、雑誌のアンケート結果を気にするとか、自分は一切経験なし。それなのに、どこにシンパシーを覚えたかというと、手でカリカリ漫画を描いているところ。そして、机の上に置かれていた修正液。このポスターカラーの代用品を自分以外に使っているのを初めて見ました。

今の20代、30代の漫画家はみんなPCで描いていますから、修正液なんて不要ですよね。同様に、円や楕円を描く定規。今や絶滅危惧種の手描き漫画家の日常として、本作は貴重な記録映像になるかもしれません。

自分のところにもアシスタントが1人いますが、もっぱらIT担当。最近は、PDFデータで納品してくださいと言われることも多くて、自分は一切できないもんですから、頼り切っています。

『見上げてごらん』
監督:森本晶一&佐藤快磨 出演:森田剛、森川葵、川上友里、阿部寛、松本まりか、武田鉄矢ほか 配給:ギャガ 10月30日(金)テアトル新宿ほか全国順次ロードショー

「週刊実話」11月12日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つほか、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。