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ジャスティン・ビーバーが火をつけた日本茶ブーム~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

アメリカを中心に海外で緑茶の人気が高まっている。その背景を探るとともに、日本茶業界の今後を占ってみた。

農林水産省の統計データによれば、2020年における農林水産物・食品の輸出総額は、前年比1.1%増と微増だったが、日本茶は前年比11%増の約162億円と、かなりの健闘を示している。

輸出茶の形状としては抹茶を含む「粉末状の緑茶」が一番多く、その割合(金額比)は61%を占める。平均単価が前年比121%と上がり、輸出額のアップに貢献しているが、とりわけ欧米や中近東、ロシアでは粉末状の緑茶の単価が極めて高く、高品質の抹茶が取引の中心になってきていることを示している。

中でもアメリカは全輸出額の半分以上を占めるが、現地で人気が高まった理由について、フードアナリストがこう明かす。

「昨年、世界的シンガーのジャスティン・ビーバーと、彼の妻で人気モデルのヘイリー・ビーバーが、日本食レストランから出た瞬間をパパラッチされました。その際、ヘイリーが『お~いお茶』のペットボトルを手にしていたのです。注目度の高いカップルですから、世界中から『あれは何?』と話題になりました」

日本人が慣れ親しむ伊藤園の『お~いお茶』は、海外でもアメリカ仕様の『Oi Ocha』として発売されており、オーガニック志向が高まっているアメリカでは、若者や女性を中心に飲まれているという。

厳密には緑茶というより日本茶のペットボトルだが、現地のセレブたちによく浸透していることが分かる。また、数年前からニューヨークやロサンゼルスなどの大都市では、抹茶専門のカフェが次々に誕生しているという。

アンチエイジング効果も人気の理由

「アメリカでは若年層のカフェイン過剰摂取という問題から、コーヒーやエナジードリンクに代わるヘルシーな飲み物を模索する動きがありました。その到達点が緑茶なのです」(同)

消費の形態を見ると、茶器で淹れて飲む茶葉よりも、抹茶やティーバッグのほうが好まれている。健康志向が強いアメリカ人には、無糖の緑茶やフレーバーをつけた緑茶が人気を呼んでいるようだ。

「アンチエイジング効果も人気の理由です。緑茶に多く含まれる茶カテキンとビタミンEには、高い抗酸化作用があり、老化につながる活性酸素を除去する働きがあります。そして、お茶には肌トラブルを防ぐビタミンB群と、コラーゲンの生成を助けるビタミンCが豊富に含まれているので、女性たちには美肌効果も期待されています」(同)

また、IT企業の一大拠点であるシリコンバレーでは、緑茶を飲む習慣が急激に広がったという。経済評論家が解説する。

「緑茶の旨み成分にはテアニン(アミノ酸の一種)という物質が含まれ、これが脳をリラックスさせる働きがあるのです」

ところで、ここまで日本茶が世界的な人気を得て、輸出量も伸びていると述べてきた。だが、世界の「お茶」の全体消費量からすると、まだ日本茶は低位だという。飲料メーカー関係者が明かす。

「ひとくくりにお茶といっても、茶葉の発酵具合によって種類が違い、発酵させない『緑茶』、半発酵の『ウーロン茶』、完全発酵させた『紅茶』に大別されます。国際茶業委員会(ITC)によれば、お茶の年間生産量の約6割は、インド、ケニア、スリランカなどで生産される紅茶で、緑茶の生産量は全体の3割です」

新型コロナウイルスの不活化に効果あり!

緑茶の最大の生産国は中国で、次いで日本、ベトナム、インドネシア、インド、ロシアとなる。全世界における緑茶の生産量のうち、日本は1割強。日本では茶葉を蒸してから揉んで乾燥する「蒸製緑茶」が主流だが、中国で生産されている茶葉を釜で炒って乾燥する「釜炒製緑茶」が、世界中で飲まれている緑茶の約9割を占めている。

「日本茶業界がさらに輸出量を拡大するには、品種改良や新たな飲み方の提案、周辺機器の開発などが求められる。なかなかハードルは高いのです」(同)

しかし、光も見え始めている。日本茶の生産者が解説する。

「もともと抹茶の源流は中国ですが、日本には鎌倉時代に流入したといわれている。そして、茶道を通して発展し、今や日本発の文化として世界をとりこにしているのです。ただ、抹茶には中国も力を入れ始めているので、強力なライバルになると感じています」

もう1つ、日本茶への新しい光は、新型コロナウイルスの不活化に効果ありという評価だ。薬品メーカーの関係者が言う。

「京都府立医科大学の研究グループが、新型コロナウイルスにお茶を添加すると、感染力が極端に弱まることを発見しました。普通にお茶を飲むだけでも効果があるのか、次の発表が注目されます」

日本茶が今後、世界で羽ばたくには、新しい光を力に変え、品質や衛生面などの優位性をどうアピールできるかが、最大の鍵になるだろう。

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