『おもかげ』
監督・脚本/ロドリゴ・ソロゴイェン
出演/マルタ・ニエト、ジュール・ポリエ、アレックス・ブレンデミュール、アンヌ・コンシニ、フレデリック・ピエロ
配給/ハピネット
今回は、ちょっと違う誕生の仕方、ショートフィルムからスタートした長編の作品です。私は、『ショートショートフィルムフェスティバル』のアンバサダーを務めさせていただいていますので、年々ショートフィルムへの関心が高まっているのが分かります。今までは、長編を作りたいけど、まだそこまでできなくて〝長編映画への登竜門〟とされていたショートフィルム。でも、最近は長編を作っている監督や役者が、あえて本当にやりたいことをショートフィルムで表現しています。短い上映時間だからこそストレートに突き刺さるメッセージだったり、クスッと笑えたり、哲学的だったり、そして、今回みたいなテーマにも繋がります。
この作品の切ない感情に惹かれ、すぐに配給会社に電話をして「元になったショートフィルムが見たい!」と興奮気味に伝えたら、なんと、この長編の冒頭の15分こそがショートフィルムだったのです。今までも、長編になった作品は多くありましたが、大体はゼロから作り直します。でも、この1本はそのまま続きを作ったのです。
主人公の気持ちを自分の中で噛み砕いてほしい…
元は『Madre(母)』。スペインの新鋭ロドリゴ・ソロゴイェン監督が2017年に製作し、世界の映画賞を50以上も受賞。今回は、その先の物語を描いています。
エロティックさに満ちていて、でも、その向こう側には息子を亡くした母の愛が溢れている。フランスにいる幼い息子からの電話。「お父さんがどこかへ行ってしまい、知らない男がこっちに来る」というハラハラするシチュエーションに、遠くスペインにいる母は何ができるのか!? 突然、電話は切れ、それが息子との最後の会話に。
10年後、息子が消えたビーチのカフェで働く主人公のエレナ。ある日、息子の〝おもかげ〟がある少年ジャンと出会う。消えた息子であることへの希望と空回りする気持ちが、少しずつ男性に対する愛へと、複雑に変化してしまう。頭の中がジャンのことでいっぱいのエレナ。でも、その根本にあるのは母としての愛でしょう。女性の心を覗き見した感覚になります。
亡くした悲しみは一生消えない。だからこそ、あのラストの行動…。それを、ここまでエンターテインメントにしたのはすごい。はっきりと終わる作品ではないので、エレナの気持ちを自分の中で噛み砕いて、感じてほしいです。
LiLiCo
映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。
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