「死体を跡形もなく消すことは可能なのか?」法医解剖医が明かす“完全犯罪”の難しさ

『法医学教授が教えている死体の授業』飛鳥新社、1,700円(本体価格)、著者:飯野守男

『法医学教授が教えている死体の授業』飛鳥新社、1,700円(本体価格)、著者:飯野守男
いいの・もりお:1971年鳥取県米子市生まれ。解剖学者の父を持ち、中学生の時に法医学者を目指す。鳥取大学医学部卒業、大阪大学大学院で博士号取得。京都大学、大阪大学、慶應義塾大学で勤務後、2015年鳥取大学医学部法医学分野の教授。

ヤクザの組長が起こした衝撃事件

──なぜ、法医解剖医の仕事を選ばれたのですか?
飯野 解剖学者だった父は「目の前の患者を治すことだけが医者の仕事じゃない。お父さんは研究で世界中の人を救える」と語っていました。小6の夏休みにウシガエルを解剖して骨格標本を作り、体の仕組みへの興味が芽生えました。転機は中2のとき、書店で目にした法医学の教科書。れき断死体や溺死体の生々しい写真に一度は本を閉じましたが、「めずらしい職業」への好奇心と父と同じ「患者を診ない医師」への親近感からこの道を志しました。

──特に印象に残っているケースを教えてください。
飯野 あるヤクザの組長が出所直後に「俺の女に手を出した」と激怒し、子分を後頭部から撃って殺害、遺体をドラム缶に詰めて重機で河川敷に埋めた事件を担当しました。白昼堂々ユンボで穴を掘る様子は普通の工事にしか見えず、誰にも疑われなかった大胆さに驚かされました。拳銃で至近距離から6発撃たれて体に13個の穴が空いた事件でも、CTのない時代で銃弾の検索に苦労したことが記憶に残っています。

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遺体の身元特定を可能にする科学の力

──昔のヤクザにはB型、C型肝炎患者が多かったそうですね。
飯野 戦後、覚醒剤の注射器の使い回しや、入れ墨の針・インクの消毒や滅菌が不十分で、血液を介した感染がヤクザの間で広がったと考えられます。ただし、C型肝炎ウイルスの発見は1989年で、それ以前は原因不明の「非A非B型肝炎」とされ、のちの検査技術の進歩でC型と判明したケースが多いのが実情です。私が解剖医になった90年代、C型肝炎と診断されていた事例はほぼ入れ墨のあるヤクザでした。現在は入れ墨の衛生管理も向上し、両肝炎とも有効な治療法が確立しています。心当たりのある方は検査をおすすめします。

──死体を跡形もなく消すことは可能ですか?
飯野 結論から言えば、極めて困難です。2010年の「八王子ホスト殺人事件」の報道では、加害者が寸胴鍋に遺体を入れ、強アルカリ性の薬品で煮込み証拠隠滅を図りましたが、汚水槽からインプラントが発見され逮捕されています。今年も、動物園の焼却炉から人体の一部が見つかる事件が報道されました。骨を完全に灰にするには、高温設備でも相当な力と時間が必要です。筋肉や臓器は溶かせても、DNAは骨から検出でき、性別や年齢、手術歴まで分かります。人が1人姿を消せば、必ずどこかに痕跡が残る︱︱それが法医解剖医としての実感です。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」10月15日号より