池袋高齢者暴走事故の加害者はなぜ事故の非を認めなかったのか? 飯塚幸三の日記が明かした“知られざる内面”

『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』文藝春秋、1,800円(本体価格)、著者:守田哲

『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』文藝春秋、1,800円(本体価格)、著者:守田哲
もりた・あきら:1982年生まれ、山口県出身。2007年に早稲田大学法学部を卒業後、TBSテレビ入社。報道カメラマンとして中国・北京支局、記者として警視庁担当、警察庁担当、警視庁キャップを経て、「報道特集」ディレクター。現在は北京支局長。

遺族と向き合い続けた記者の視線

──飯塚幸三さんは一貫して事故の非を認めようとしませんでした。どのような人物に映りましたか?
守田 飯塚氏の中にあった、現実に向き合いたくないという「弱さ」は、私を含め多くの人に共通するものではないでしょうか。誤解を恐れずに言えば、飯塚氏は本書で取材した人々の中で最も親近感を覚えた人物でした。もし私が事故で妻と娘を失った松永拓也氏の立場なら、加害者が憎くて仕方なかったでしょう。飯塚氏の日記を読み、彼は事故の原因が車両の異常にあると本気で信じていたと確信しました。擁護する意図はありませんが、彼の人格や業績についても事実を知ってほしいと考えています。

──松永さんとは100回以上、面会したそうですね。
守田 松永氏の「憎しみよりも愛を」という信念は、一筋の太い道のようなものでした。葛藤や迷いで隘路に入っても、のたうち回りながら必ずそこへ戻ってくる。言葉の選び方も卓越していて、取材を進める上で何度も助けられました。一時は自分の家族より長い時間を共に過ごしましたが、追いかけても追いかけても、心情を理解しきれない焦燥感がつきまといました。

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「上級国民説」と誹謗中傷の実態

──ネット上では、さまざまな誹謗中傷が飛び交いました。
守田 飯塚氏の不逮捕については「上級国民説」が広まりました。しかし、どんな事件でも容疑者が重傷を負い入院している場合、逮捕しないのは捜査の常識です。遺族に対しても「保険金目当て」「講演料目当て」という声がありました。しかし、いくら保険金を受け取ったところで、あの絶望から立ち直れるはずがありません。誹謗中傷をした人たちには、他人を攻撃して注目を集め満足を得たり、アクセスを稼いで収入につなげたりという卑劣な目的がありました。

──松永さんと飯塚さんの長男との対話では、どのようなことが語られたのでしょうか?
守田 松永氏は「遺族と加害者家族という二元論を超えたい」という思いで対話に臨みました。今振り返っても信じがたいことです。当事者同士が感情のもつれなく話し合えるのか半信半疑でしたが、実際の場は極めて冷静で、再発防止について具体的な議論が交わされました。長男も事故を客観的に分析していました。父親と同じ優秀な技術者で、情理に優れた人でした。父の罪を半ば背負う形になったわけですが、その長男を支えたのもまた家族でした。私が描いた長男の姿には、日本の家族観を問うメッセージも込めています。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」10月1・8日号より