「人の欲望は法律では規制できない」『社喰い』著者が明かす“会社を食い潰す経営者”の実態

『社喰い』ダイヤモンド社、1,800円(本体価格)、著者:片田江康男

『社喰い』ダイヤモンド社、1,800円(本体価格)、著者:片田江康男
かたたえ・やすお:記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。本書が初の著書。

名門組織をのみ込んだM&Aの迷走

──『社喰い』とは、どんな状態を指すのでしょうか?
片田江 本書で取り上げた船井電機やミュゼプラチナム、ルシアンホールディングス、マイスホールディングスでは、経営陣が会社資金を自社の成長や従業員、債権者、取引先にとって必ずしもプラスになることがない使い方で業績を悪化させていました。その背景には、経営陣の自己承認欲求や金銭欲、事業欲などの欲があったと、取材を通して感じました。自分勝手な欲を背景とした会社を食い潰す行為を、『社喰い』と表現しました。

──M&Aが会社を壊す方向へ変わる分岐点は何だと思いますか?
片田江 M&Aで成長しようと戦略を立てた買い手の中には、当初は真っ当な考えを持っていた人もいたと思います。第1章で取り上げた船井電機も、事業を多角化し、自社の強みである家電製造のノウハウを活用しようと考えました。しかしそれと同時に、長年の赤字体質と役員同士の責任の所在が不透明であるという二つの弱点を抱えていました。そうした組織だったこともあり、不可解なM&Aが進められたり、就任の経緯が不明な取締役が出入りしたりすることが続いたのだと思います。結果的に収拾不能な混乱状態に陥っていきました。本書で取り上げた企業に共通するのは、経営の不透明さと、それが許される管理体制の甘さです。

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トラブルを生み続ける業界の病巣

──M&A支援のトラブル防止を目的とした中小M&A資格試験が新設されます。今後トラブルは防げると思いますか?
片田江 残念ながら防げないと思います。いずれ現在のようにトラブルが頻発する状態からは脱すると思いますが、決してなくならないでしょう。今のM&A関連のトラブルは、人の欲を背景としているからです。欲望は、資格新設や法律では規制できるものではありません。

──会社を売る経営者や、そこで働く社員に、本書から何を知ってほしいですか。
片田江 会社の売却を考えるきっかけとして多いのは、後継者の問題です。そうした企業にとって、事業承継は、数年以内に解決しなければならない課題です。ただし、その答えは必ずしもM&Aだけではありません。仲介会社は、さも唯一の解決策のように説得してきますが、選択肢は他にも存在します。M&Aはあくまでその一つに過ぎないと認識することが、正しい出発点だと思います。まずは取引先の銀行や顧問の税理士、弁護士などの専門家に相談することが重要です。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」9月17・24日号より