「山頂を目指すだけが登山じゃない」佐々木俊尚が提唱する“フラット登山”の楽しみ方

『フラット登山 日本を歩く旅60』かんき出版 2,000円(本体価格)著者:佐々木俊尚

『フラット登山 日本を歩く旅60』かんき出版 2,000円(本体価格)著者:佐々木俊尚
ささき・としなお:作家・ジャーナリスト。テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで縦横無尽に発信し、日本のインターネット論壇における最強の論客のひとり。早稲田大学入学と同時に、登山サークルへ入り、社会人山岳会にも加入してバリエーションも含めた本格登山に目覚める。

五感で味わう山道の魅力

──フラット登山とはどのような旅でしょうか?
佐々木 山頂を目指し、つらい思いをして急な山道を登るだけが登山じゃありません。静かな森の小道や、すがすがしい湖畔、せせらぎが聞こえる川沿いなど、さまざまな道をゆっくり歩きながら自然を楽しむのがフラット登山です。歩くことを苦しいと考えず、その時間そのものを味わおうという考え方です。本格的な登山ほどではありませんが、舗装されていない山道も歩くので「散歩以上」と考えてください。

──本書では「官能」の大きさで道の魅力を評価していますね。
佐々木 登山コースは、難易度や標高、距離といった数字で評価されがちです。けれども、それだけでは山の魅力は十分に伝わりません。実際に歩いて心地よいか、景色や空気を楽しめるか。「山道」の気持ちよさこそが大切です。そこで、山道を歩く楽しさを「官能の度合い」で評価しています。景色や音、匂い、足裏の感触など、五感を通してどれだけ深く味わえるか、ということです。

フラット登山では、その感覚を次の5つに分けています。「異世界に迷い込んだような感覚」「広大で開放感がある」「変化に富み、歩く足に快感がある」「冒険心が満たされる」「霊性に触れ、畏怖を感じる」こうした感覚がどれだけ重なり合うかによって、その山道ならではの心地よさを捉えていきます。

【関連】「会社が人生の全てではない」アドラー心理学に学ぶ“仕事に疲れた人”の生き方

気軽に始めるための四種の神器

──フラット登山に必要な装備はありますか?
佐々木 最低限必要なのは、登山靴とバックパック、レインウェア、ヘッドランプです。これを「四種の神器」と呼びましょう。私は、旅行の途中などで、1〜2時間ぐらい山歩きを取り入れることを提唱していますが、この4つがあれば簡単な山歩きにも対応できます。登山靴は靴底がしっかりしていれば、300㌘台のローカットで十分です。

──佐々木さん一押しのコースを教えてください。
佐々木 夏の暑い時期は、標高の高い場所を歩くのがおすすめです。一般に標高が100㍍上がると、気温は約0.6度下がります。標高2000㍍の山道なら、東京が32度の日でも20度前後。歩くには最高の気候です。なかでも初心者に向いているのが、長野県の美ヶ原です。標高は約2000㍍。高原を通る道は未舗装ですが、幅が広く、運動靴でも歩けるルートもあります。散歩気分で楽しむなら所要時間は1〜2時間ほど。涼しい風を感じながら気軽に歩ける、夏のフラット登山にうってつけの場所です。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」9月3日号より