甲斐智枝美『スタア』が映す“80年組の陰に隠れた名曲”と1980年の夏【スージー鈴木の週刊歌謡実話第44回】

数々の不運、それでも得た最高の一曲

さて、デビュー曲が名曲のわりに売れなかったのですが(『ありがとう』は最高40位まで達したのに対し、『スタア』は何とチャート圏外)、俳優として、タレントとして、テレビでよく見かける存在となります。

ですが、’90年に結婚、子宝にも恵まれ、事実上の芸能界引退状態となり、その名を聞かなくなりました。

しかしデビューから26年経った2006年、突然「甲斐智枝美」の名前がメディアに乗ったのです。千葉県習志野市の自宅で首吊り死しているのが発見されたのでした。死因は自殺と断定されます。

思えば、彼女のアイドル人生には、ライバルの多い80年デビュー、デビュー曲がまさかのチャート圏外と、いくつかの不運が重なった感じでした。また、かなり早い時期にヌード写真を発表したことも、その後の芸能生活によくない影響を与えたのかもしれません。

でも、それはそれ。デビュー曲にこれだけの名曲をあてがわれたということは、彼女にとって最高の幸運だったと私は考えるのです。

46年前の夏に引き戻してくれる、あっけらかんと乾いたメロディーは、今でもアラ還の悩ましい夏を元気付けてくれる――。

甲斐智枝美は旅立ったけど、この『スタア』だけは「♪夜明けが来ても 大空から消えないでほしい」。

「週刊実話」9月3日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。