「公務と酒? 酒に決まってるだろッ」立川談志が政務次官を36日で辞任した“破天荒すぎる政治家人生”【怪人/快人伝 第4回】



銀座の夜に見せた天才落語家の“裏の顔”

インタビュー申し込みで、一応、手紙にその趣旨をしたためたのだが、2〜3日すると談志本人から私の事務所に電話があり、「いいですよ。○月×日夜8時、銀座の『エスポワール』で会いましょう」となった。

『エスポワール』とは当時の銀座の“2大クラブ”で、女将が『おそめ』と姸を競って話題になっていた。それまでそんな高級店に入ったこともなかっただけに、いささか出向くのをひるんだ思い出がある。

さて、定刻通り出掛けていくと、すでに談志の姿があった。ただし、喧噪が行き交うフロアーではなく、その端の5〜6人が腰を下ろせる、ホステスのいないカウンター席で、ちょっとした打ち合わせで来る客や、静かに1人で飲みたい客のための席である。
 
時に、カウンター席にまだ客は誰もおらず、なんと談志はバーテンよろしくカウンターのなかにいて、私を「いやぁ」と小声で出迎えてくれ、そのあとニッと笑った。なにやら照れ笑いのようであり、折に触れ談志の傲岸さをテレビなどで知っている者としては、この“柔らかさ”に違和感を禁じ得なかった。
 
初対面のあいさつから軽い雑談を交え、私は談志にいくつかの質問をした。50年以上が経過しており、その多くは忘れたが、いまだ忘れられない記憶もある。
「国会議員としての実績はゼロだったと思うが…」と問うと、またしても談志は照れくさそうに微笑んで、「(議員生活は)まあ、野暮だったかな。オレはおっちょこちょいなのかもしれませんな」と、はにかんだ表情も見せていた。
 
そこには高座などで見せる放埒の片鱗はうかがえず、天才落語家の「表の顔」と、高座を降りたあとの「裏の顔」の違い、その本質を改めて知ったのである。それは、もう一つの談志の発見と言えたのだった。
(本文中敬称略/この項つづく)

「週刊実話」8月20・27日号より

小林吉弥(こばやし・きちや)

政治評論家。早稲田大学卒。半世紀を超える永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局・選挙分析に定評がある。最近刊に『田中角栄名言集』(幻冬舎)、『戦後総理36人の採点表』(ビジネス社)などがある。