ホルムズ海峡危機で何が起きたのか――海運研究者が明かすコンテナ輸送の知られざる現実

『コンテナ海運が世界を動かす』角川新書、1,200円(本体価格)著者:松田琢磨

『コンテナ海運が世界を動かす』角川新書、1,200円(本体価格)著者:松田琢磨
まつだ・たくま:神奈川大学経済学部教授。筑波大学第三学群社会工学類卒業。博士(東京工業大学)。日本海事センター主任研究員、拓殖大学商学部教授を経て、2025年4月より現職。コンテナ輸送市場と業界の動向に関して調査・研究を進めている。

ベビーベッドから墓石まで運ぶ万能インフラ

──「コンテナ」とはどのようなものなのですか?
松田 世界共通の規格でつくられた金属製の箱に荷物を積み込み、箱単位でまとめて運ぶ輸送システムです。主に長さ20フィート(約6m)と40フィート(約12m)のものがあり、一般的な荷物を運ぶドライコンテナのほか、冷凍機を内蔵した「リーファー(冷蔵冷凍)コンテナ」など、運ぶ貨物に応じてさまざまな種類のコンテナがあります。箱の規格を世界で標準化し、船からの積み下ろしを機械化したことで、船・トラック・鉄道へ「箱ごと」載せ替えられ、港での積み下ろしが一気に効率化しました。

──具体的にどのようなものが運ばれているのでしょうか?
松田 ベビーベッドから墓石まで、運ぶ貨物はほんとうに多種多様です。たとえばスーパーやコンビニの冷凍食品やお酒、ホームセンターの家具・家電、ゲーム機や文房具、暮らしを支える品物の多くがコンテナで運ばれています。2024年には日本の輸出入額の40・2%が海上コンテナによるものでした。意外なものでは牧草などもコンテナで運ばれています。

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有事で浮き彫りになった物流の弱点

──ホルムズ海峡危機が問題になりました。コンテナの保険にも影響はあるのでしょうか?
松田 大きく影響します。海上輸送を支える保険には、荷物を守る貨物保険、船体を守る船舶保険、船主の賠償責任を支えるP&I保険があります。ホルムズ危機では、これとは別に「戦争危険プレミアム」が一航海で船の価格の数%にまで跳ね上がり、一部の保険者は追加の補償を撤回したり、条件を厳しくしたりしました。保険料だけでなく船員や船体の安全確保も難しく、大手の船会社はドバイのジュベル・アリ港を含むペルシャ湾向けの予約を停止し、港の外での荷揚げや陸送に切り替えました。

──コンテナは経済の「血液」とおっしゃっていますね。
松田 血液が体のすみずみへ酸素や栄養を届けるように、コンテナは世界中へ原材料や製品を運び、経済を動かし続けています。荷物を詰めた箱は「動脈」をたどってモノを届け、空の箱が「静脈」を通って輸出国へ戻っていきます。世界の港では1年に約8.6億TEU(20フィートコンテナ換算個数)ものコンテナが取り扱われています。コロナ禍でこの流れが滞ったとき、サプライチェーンが寸断されてモノが届かず、多くの人が改めてその大切さに気づきました。コンテナの動きは、世界経済の大きな流れでもあり、まさに「経済の血液」なのです。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」7月30日・8月6日号より