「日本必敗」の結論はなぜ無視されたのか――映画『開戦前夜』が暴く“開戦への空気”【やくみつるのシネマ 小言主義 第301回】

今こそ若者に見てほしい理由

ただ、東條英機ですら開戦派でなかったとしたら、いったい誰が開戦へと舵を切ったのか。必ず決断した個人がいるはずなのに、そこを曖昧にしているのは映画の描き方として腰が引けているのではと感じました。

それまでの連勝からイケイケドンドンになっていた軍部や、NOと言えない大衆の同調圧力、つまり〝空気〟のせいだと言いたいのか。だとしたら、「今」はどうなのかと再認識してもらい、「こうやって、知らない間に開戦になってしまうんだ」と一人一人が危機感を抱くために見ておきたい映画だと思いました。

面白かったのは、30代前半の若者らが研究所内で「模擬内閣」を結成していたこと。最初は「ごっこ遊び」のようだったのが、役割を与えられたことで次第に本気になっていきます。

内閣総理大臣役に抜擢された民間人には池松壮亮、狂言回し的な言動を取る政治部記者には仲野太賀と、NHK大河ドラマの『豊臣兄弟!』コンビが活躍するのも、見どころの一つです。

今や、若者の投票率の低迷が常態化しています。「自分の一票では何も変わらない」と感じている若者こそ本作を見てほしい。自分らの年代は、次の「開戦前夜」には、何の力も発揮できないと思いますからね。

『開戦前夜』
監督・脚本・編集:⽯井裕也 原案:猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」中央公論新社 出演:池松壮亮、仲野太賀、岩⽥剛典、中村蒼、三浦貴⼤、⼆階堂ふみ、杉⽥雷麟、北村有起哉、嶋⽥久作、中野英雄、渡辺いっけい、別所哲也、松⽥⿓平、奥⽥瑛⼆、國村隼、佐藤隆太、江⼝洋介、佐藤浩市 配給:東京テアトル 7⽉31⽇(⾦)全国公開

「週刊実話」7月30日・8月6日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。