なぜ普通の若者は闇バイトに堕ちたのか――『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』著者が見た犯罪組織の実態

『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』講談社、1,700円(本体価格)著者:栗田シメイ

『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』講談社、1,700円(本体価格)著者:栗田シメイ
くりた・しめい:ノンフィクションライター。1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経て現職。スポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。

相手の欲望を見抜く詐欺組織トップの天才的な操縦術

──ボスの渡邉優樹は、どんな生い立ちの男だったのですか?
栗田 北海道の別海町という小さな町で、酪農を営む家の長男として生まれました。学生時代は剣道に打ち込み、高校卒業後は札幌近郊の大学に進学。ススキノの水商売の店で黒服として働き始めます。その後、複数のパブクラブを経営。ほかにも野菜の卸しや不動産業、ライブチャットの運営など多角的な事業を展開していきます。2017年にタイで特殊詐欺グループを立ち上げて以降は、組織のトップとして君臨しました。

──マインドコントロールの天才だそうですね。
栗田 組織の中では、「気軽に話しかけられる存在ではなかった」といわれています。幹部の小島智信ですら「自分は渡邉教の信者だった。人間的な魅力があった」と証言していることからも、渡邉がいかにカリスマ性のある人物だったかが分かります。メンバーそれぞれの性格を把握し、相手が求めている言葉をかけ、自分の思う通りに動かすという能力に長けてもいました。また組織を「会社」、詐欺を「ビジネス」と定義。就業規則を設けるなどして、「仕事」だと認識させていた。それゆえに、組織の人間は犯罪を行っているという意識が希薄となり、犯行がどんどんエスカレートしていきました。

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「金を稼がない人間に価値はない」という洗脳

──「伝説のかけ子」山田李沙はなぜ6億円も騙し取れたのでしょうか?
栗田 ほかの誰よりも詐欺の電話をかけていた(1日200件ほど)からです。なぜそれができたかというと、山田がこれまでの人生で自らを虐げてきた人(特に男性)に対して復讐心のような感情を抱いていたことと、「詐欺で結果を出さないと自分には価値がない」と強迫観念を持っていたことが大きい。「金を稼がない人間に価値がない」という組織の空気を感じ取り、自分なりにその環境に適応していたことも、要因のひとつでしょう。

──なぜ普通の若者が広域強盗の実行犯になってしまったのでしょうか?
栗田 応募者はギャンブルで借金を抱えるなど、喫緊に金が必要だったというケースが多い。犯行が凶悪化した背景には、指示役の影響も感じます。「殴らないと金をあげません。ただし殺してはいけません」などと、指示役から強い口調で迫られていたからです。その結果、正確な判断ができなくなり、過激な行動をとるようになっていった。報酬に目がくらみ、良心の枷も外れてしまった。指示役たちは、どうすれば実行犯が思い通りに動くかを、熟知していたように思います。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」7月23日号より