石坂智子『ありがとう』が映す“一億総中流”という1980年の幸福論【スージー鈴木の週刊歌謡実話第40回】



「ニューミュージック歌謡」という個性

そんな伊藤薫が作曲だけでなく作詞まで手掛けた『ありがとう』は、いってみれば「ニューミュージック歌謡」。キャピキャピしたアイドル臭のまるでない、ニューミュージック的、フォーク的な1曲で、そのあたりが背伸びしたい中2には、とてもよかったのです。

ラストの歌詞の締め方にしびれます――「♪この時代にありがとう」

「時代」と来たもんだ。「時代」を歌う中島みゆきはいても、『時代』を歌うアイドルはなかなかいないでしょう。でもいいんですよ。ニューミュージック歌謡なんだから。

「受験戦争が激しくて、そこから落ちこぼれた不良が校内暴力に向かっているけど、とりあえずは貧困も戦争もなく、一億総中流、何となーく豊かなこの時代にありがとう」という感じだったのかしら。

ちなみに・その1。編曲は、この年佐野元春『アンジェリーナ』を手掛け、3年後に松田聖子『SWEET MEMORIES』でレコード大賞編曲賞を受賞する大村雅朗。地味ながら、さすがの腕前を聴かせます。

ちなみに・その2。レコード会社は東芝EMI。また出た「EMアイドル」。アイドル王道レーベルのCBSソニーやビクターに比べて地味なんだよなぁ。でも地味だけど憎めないんだよなぁ。

「週刊実話」7月23日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。