ケーキを用意できなければ重い罰――9歳の少女が独裁政権に翻弄される『大統領のケーキ』の衝撃【やくみつるのシネマ 小言主義 第300回】



少女の涙に刻まれた、忘れてはならない教訓

しかし、利発なラミアは親友の少年とともに材料集めに奔走します。材料さえ集まれば、祖母との暮らしが続けられると信じて…。

資料によると、子役はもちろん、キャストのほとんどが演技未経験。大変な手間と時間をかけ、シナリオの時系列通りにイラクでロケ撮影していったそうです。

イラクといえば、現在戦争渦中のイランの隣国。こんな映画が撮影できるということは、混迷を極めた政権崩壊後のイラクも少しはマシになったのでしょうか。不思議なことに、最近イラクの情報はまったく入ってきませんよね。本作を見て、現在のイラクを見に行ってみたいと、謎の欲が出てきました。砂漠の国だと思っていたら、こんな水上生活をしている地域があるとは。

戦時中の日本もそうでしたが、為政者の威を借る軍部に対して、何かおかしいと思っていたとしても、誰も声を上げることはできなくなる。揚げ句に悲惨な結末が待っているのだから、違和感はそのままにしてはいけない。ラミアの頬に滲む涙とともに記憶に刻んでおきます。これは決して過去の話ではないですからね。

『大統領のケーキ』
監督・脚本:ハサン・ハーディ 出演:バニーン・アハマド・ナーイフ、サッジャード・モハンマド・カーセム、ワヒーダ・サーベト、ラヒーム・アルハジ 配給:松竹 7月10日(金) 新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

「週刊実話」7月16日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。