「100年後にパチンコの歴史を調べる誰かのために」3300軒を巡った栄華が記録を残し続ける理由【死ぬ前にやっておくべきこと】



栄華が監修を務めた「八画文化会館Vol.7」


編集者から突然連絡が途絶えた…777軒分の原稿と消えた出版の夢

’08年、東京の出版社から出版の話が舞い込んだ。嬉しくて、全精力と5年の歳月を掛けて全国のホール777軒分の原稿を書いた。だがそれは表に出ることがなかった。ある日を境に、ぱったりと編集者との連絡が途絶えたのだ。5年の月日が露と消えた栄華は、うつを患う。

暗い森の奥から彼女を掬い上げたのは、好きなものの力だった。’19年、路上観察やサブカルを偏愛するムック『八画文化会館』がパチンコを特集する。その監修者に選ばれたのが、栄華だった。

「八画文化会館を通して、ようやく業界の外で『パチンコ文化の多様性』に注目してくれる仲間に出会えた気がしたんです。私のこれまでの活動は決して無駄じゃなかったんだって。5年かけて書いた本の原稿も八画文化会館には存分に生かされました。捨てる神あれば拾う神あり。そんな気がしましたね」

栄華の表現活動はさらに幅を広げる。バンド「テンゴ」。パチンコの歌だけを歌う、珍妙な楽団だ。

「もう10年、40曲。何が面白いって、メンバー5人のうち私以外の4人は、パチンコを打たないんですよ(笑)。それでも楽しそうに演奏してくれる。このメンバー、私の人生のいろんな場面で出会った人たちなんです。大学の劇団で一緒に芝居をやった音楽の人。ケーブルテレビ時代に知り合った人。ばらばらの時代の、ばらばらの場所で出会った人たちが、今、肩を並べてパチンコの歌を歌っている。打つ人と打たない人の間の、あの分厚い壁はそこにはない。私のやってることは、結局ぜんぶ、そこに通じているのかもしれません」

打たぬ者にこそ、文化を届ける。壁を溶かす。それこそが、彼女が生涯を懸けた主題であった。では――栄華が、死ぬ前にやるべきこととは、何か。

「パチンコへの愛が、ちゃんと込もった本を、たくさん残すこと。それを、国会図書館に収めたいんです。100年後、誰かがパチンコの歴史を調べたときに、出てくるのが攻略法と、闇と、金の話ばかりだったら、寂しいじゃないですか。その中にたった一冊でも、『あ、この人だけは、本気でパチンコを愛していた。こんなにいろんな角度から、面白がって見ていた人がいたんだ』と伝わる本があればいい。生きているうちに評価されなくたって、かまわないんです。残りの人生は、それに懸けます」

100年後の、まだ見ぬ誰かのために。ただ愛したものの記録を、未来へそっと手渡そうとする。

ふと、思う。耳の穴にパチンコ玉を詰め、軍艦マーチの中でただ一人、静かに銀の玉を掘っていた、あの福島の祖父。栄華が残そうとしているのは、つまるところ、祖父が愛し、幼い自分が焦がれた、あの夏のホールの匂いそのものなのかもしれない。

日本列島の形に並んだ、3300のピン。その次の一本は、まだ、打たれていない。終わりなき巡礼の旅は、まだ当分、続きそうである。
 (完)

「週刊実話」7月16日号より