「教え込みすぎたら選手は育たない」女子高校野球監督・野々垣武志の“腹八分”指導論【死ぬ前にやっておくべきこと】

女子高校野球監督・野々垣武志(C)週刊実話Web

指導方針は「教えすぎない」

’22年春、佐久長聖高校女子硬式野球部が産声を上げた。一期生はわずか6人。キャッチボールすらやったことのない部員がいた。ボールの握り方から教えた。投げ方、捕り方、バットの持ち方。何もないところからのスタートだった。

だが、2年目になると景色が変わりはじめる。野々垣の評判を聞きつけた中学生たちが、各地から佐久の地を目指してきた。部員が増え、チームの輪郭が少しずつ見えてきた。

野々垣の指導方針は明快だった。教え込まない。

「指導に正解なんてないんですよ。僕が言う正解は僕の世界であって、その子の世界じゃない。100人いたら100通りの正解がある。大事なことはその子のやる気をとにかく出させること。だから、練習は目一杯やらせずに、腹八分目で終わらせる。飢えさせるんです。そうすれば、やる気がある子たちは自分たちで動き出す。今の時代、調べたりいろいろできるじゃないですか。YouTubeを見てもいろいろ出てくるしね。自分でどうしてもうまくいかなかったら聞きに来てくれるわけですよ。そのほうが選手にとってはいいのかな。技術だけでなく性格もです。一人ひとりの技術も性格も全部把握した上で、あえて言わない。一番難しいのはそこでした」

練習は2時間。走・攻・守・トレーニングを15分ずつのローテーションで回し、腹八分で終わらせる。物足りないから、選手たちは寮に帰ってから自分たちでミーティングを開き、バットを振り、頭を使う。選手たちで助け合い、強固なチームワークが生まれる。それはかつてPL学園で野々垣自身がやっていたことにも似ていた。あのグラウンドで学んだことが、30年の時を経て長野の高校で息を吹き返していた。

全国トップクラスの学校と戦うための戦略も立てた。長距離走は一切やらない。強豪校の身体の大きな選手に対抗するためにスピードを重視した。女子は遅筋が多いから、走り込むとかえって瞬発力が落ちる。代わりにショートダッシュと体幹トレーニングを徹底した。スピードは打球に追いつく守備力と機動力を武器にしてくれた。そして何よりも大きな特徴である強固なチームワークを武器にして、佐久長聖はみるみる力を付けていった。

だが、’25年。大きな壁にぶつかる。春の大会で京都の福知山成美高校に29対2の大敗。夏の大会も兵庫の蒼開高校に2対1で敗れた。野々垣はこの敗戦で目が覚める。
「小技を使わずに打って勝つ。そんな理想を子どもたちに押し付けていた。初回ノーアウト一、二塁で送りバントすれば2点入る場面でも強行させて、流れを掴めない。監督の責任で負けたんです。あの負けで完全に頭を切り替えました」
 (後編に続く)

「週刊実話」5月21日号より