怒りとユーモアが同居する異色作 映画『シンプル・アクシデント/偶然』の巧妙な復讐劇

慌てて席を経ってはいけない衝撃のラストシーン

ある偶然の事故によって、主人公のワヒドが拉致した義足の男。拷問されていた間、ずっと目隠しされていたため一度も顔を見ておらず「本当に、あの残忍な看守なのか?」と確信が持てません。我々観客もまた、先の読めないミステリー仕立ての復讐殺人劇に没入していきます。

「怒りと憎しみの連鎖」という重いテーマながら、登場人物が素朴で言動がどこかユーモラスです。例えば、荒野に穴を掘って、生き埋めにしようとするも、土がサラサラでシャベルでうまくすくえないところ。どうしようもない人間くささに、共感せずにはいられません。

秀逸なのは、ラストシーン。どうか最後の瞬間まで耳をそばだててください。間違っても慌てて席を立たないように。

15年くらい前、自分もイランに行ったことがあります。実はイランの人たち、アメリカ文化が大好きなんですよ。イランで飲み物と言えばコーラ。イスラム教徒でも、クリスマスツリーはどこの家でも普通に飾ります。映画でもウェディングドレスを着て結婚式の前撮りしていますしね。

一般市民同士なら、戦争する動機はないんじゃないかと思います。

「週刊実話」5月21日号より

『シンプル・アクシデント/偶然』
監督・脚本:ジャファル・パナヒ 出演:ワヒド・モバシェリ、マルヤム・アフシャリ、エブラヒム・アジジ、ハディス・パクバテン、マジッド・パナヒ、モハマッド・アリ・エリヤスメール 配給:セテラ・インターナショナル 5月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。