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創価学会のジレンマ【後編】~都議選に暗雲“ハコモノ主義”/ジャーナリスト・山田直樹

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東京都議会選挙(6月25日告示、7月4日投開票)が最終局面に突入した状況でも、応援に出向けない大阪の創価学会一般会員の話題はいまだに、

「藤田観光から太閤園(大阪市都島区)を400億円近くで買うたんは、なんでや。甲子園球場の1.4倍の迎賓館なんて必要あるんか」

という声である。そして、学会員の疑問は、結局ここに落ち着く。

「大阪の組織を作り上げた池田先生が〝迎賓館〟を使う日は来るんか?」

都議選にも太閤園買収が影を落としているという話は、おいおい述べる。

池田大作名誉会長が、2010年に表舞台から姿を消して3回目を数える都議選。公明党は23議席を維持し続けてきたが、実はこれは2001年選挙からのこと。1985年は29議席。93年、25議席。97年、24議席。ピーク時からは議席数を減らしているのが現状である(ただし、89、93年は定数128で、現在より1議席多い)。

東京都議選の最前線で選挙活動に勤しむ一般会員からは、こんな愚痴が出る。

「椿山荘(東京都文京区)があるから藤田観光の知名度は、東京では抜群。そこが経営危機で、学会が手助けして歴史ある目玉施設(太閤園)を購入したと言えば、何か良い話に聞こえそうですが、相変わらず『学会は金満ですねぇ』とか『不景気なのにご盛況だこと』と厭味を言われたりする。もう少し、(購入を)都議選とずらすことはできなかったものか。東京では主要施設の売却もあって、『一体、学会は何をしたいんだ』と聞かれることもあります」

都内の創価学会主要施設のうち、電車から垣間見られたのが千駄ヶ谷駅近くの創価国際友好会館(以下、友好会館)だった。先のコメント中、「主要施設」とは、この友好会館を指す。

ここは「創価学会国際友好の舞台」として、多くの海外要人と池田氏の対談・面談場所として使われてきた歴史的施設なのである。世界青年大会(2011年)なども開催されたし、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官と池田氏の対談も行われている。創価学会インタナショナルの中枢が置かれていたこともある。

確かに、東京・信濃町の「創価学会拠点施設群エリア」(新宿区)から外れてはいる。慶應病院の西側(裏手)に立地し(渋谷区)、新宿御苑の東隣と言ったほうが分かりやすい。

財務が揺らぐような事態ではない

かつては、周辺でもひと際目を引く威容を誇っていた友好会館も、現在は解体工事中で建物全体を目隠しが覆っている。壁に大書されているのは「Brillia ist」の文字だ。創価学会にしてみれば、信濃町エリアへの布教資源の「選択と集中」という理屈は成り立つが、見逃せないのが買い手の東京建物。

実は、解体工事中の友好会館の反対側、外苑西通りの向かい側に「ブリリア イスト千駄ヶ谷」という物件が建っている。東京建物のブリリアブランドは、「イスト」が付くと賃貸物件。要するに友好会館が高級賃貸マンションに変身するわけだ。施設の土地・建物売却は、2020年1月。今年に入って解体工事が始まり、〝信濃町詣で〟の創価学会員の目にも車窓から捉えられることになる。

「孫が通学で利用する総武線から、友好会館はよく見ていたそうです。就職して、しばらくして建物外側が幕で覆われて、『いったい何があったの』と、こちらが聞かれて困りましたよ。一般会員には施設売却の話なんか、ぜんぜん降りてきませんから」(孫まで3世代創価学会一家の中野区在住古参会員)

あくまでも相場からの見立てだが、敷地約1600平米で20億円強と言われる売却価格。もちろん、冒頭の太閤園に比べれば、ちんまりした規模だが、買主と売主の関係は意外に絡み合っている。本題に入る前に、ニュースサイトで売却に関する毎日新聞関係者のコメントを紹介する。

「2019年11月には、同じ信濃町で、聖教新聞編集局などが置かれる『言論の拠点』として、世界聖教会館が開館しました。落成パーティーが行われ、私たちメディアも招待されました。威容という言葉が似合うような大変立派な建物でした。今回の売却は、創価学会に何かが起きているというより、保有資産の適正化と新陳代謝の一環だと思います。もちろん少子高齢化の悩みは創価学会も同じですが、財務が揺らぐような事態は起きていないと思います」

実は、この毎日関係者が言論の拠点と評する世界聖教会館敷地は、前述の東京建物から購入した物件なのである。しかも、後述するように「新陳代謝」なる表現にはクエスチョンマークがつくのだ。そもそも、友好会館の所在地は、渋谷区であり新宿区信濃町ではないのだが…。東京建物がいつ誰から土地を買ったのかと、もともとの所有者と売却理由ははっきりしている。ここにあったのは、東京電力病院なのである。

福島原発事故がなければ…

では、東京電力がなぜこのような施設を売却したのか。話は2011年の東日本大震災に遡る。福島原発事故を受け、東電は避難、移転等々の大きな負担を背負い、資産の早期売却が社是となる。社宅はもちろん、小さな水力発電所跡地や関連会社の資産まで一気に売却が進んだ。

ところが、件の東京電力病院は、資産売却リストから外されていた。これを問題視したのが猪瀬直樹副知事(当時)。2012年の株主総会(東京都も大口株主)で、こう浴びせかけたのだ。

「都の試算では120億円の価値がある。売却して株主へ還元すべきだ。東電社員とOB専用で、113病床のうち、今使われているは20床。売るのが当たり前」

この発言に世論が沸騰、止むなく入札が実施される。2013年のことだ。

「入札で手を挙げたのは3者。慶應病院と徳洲会の医療法人、そしてデベロッパーの東京建物です。(入札額)1位は東京建物です。猪瀬さんの言っている『価値』に近い価格提示です。徳洲会は当時、東京地検特捜部の公選法違反事件での強制捜査が重なり、辞退。東電のホンネは、病院医師の処遇問題から慶應に買ってほしかった。当時から東京建物が落札したら、創価学会へ転売するのではないかという見方はありました。ここの裏事情はよく分かりませんが、とにもかくにも東京建物が〝競り勝った〟」(不動産流通アナリスト)

その3年後、創価学会が新施設を建てるとぶち上げた。要するにこの土地は、東電→東京建物→創価学会へと所有者が変わっていったのだ。底意地の悪い言い方をすれば、福島原発事故がなければ学会はこの土地を手にすることができたのか疑問である。

世界聖教会館の着工は2017年7月で、完成は19年9月30日。開館は同年11月18日(創価学会創立記念日)である。ご高齢にもかかわらず、池田氏は夫人を伴って完成間近の会館を訪問している。わざわざ、聖教新聞本社落成日(1970年9月28日)に合わせての〝行幸〟だった。

いずれにしても、世界聖教会館建設は2011年3月11日以降から描きうるシナリオであって、それ以前からあたためられた遠大な構想に則った建設計画でないのは確かだろう。創価学会にとって、聖教新聞社が入るこの会館は「言論戦の拠点」なる位置づけだ。しかし、「それならば」という疑問の声は、あちこちから聞こえてくる。

危ない都議選7つの選挙区

「東京建物からいくらで買ったのか、友好会館と抱き合わせの〝交換〟なのか。友好を捨てて、言論を取ったにしても、それだけの資金があるなら、なぜ聖教新聞配達の外部委託に進むのか。関西で300億円以上をかけて迎賓館を購入したのも含め、なぜハコモノばかり造るのか。このやり方は、昭和の高度成長時代の発想にしか思えません」

と言うのは、半年前に脱会した40代自営業者である。彼は大胆にも「創価学会は資金があるのだからコロナで苦しんでいる会員に還元したらどうか」「会館をワクチン接種場所として提供する」案などを提起して、一蹴された経験の持ち主。加えて、「世界聖教会館だって、一般会員が担っている新聞配達の待遇改善にどうしてお金を使わないのか。配達員は『無冠の友』と持ち上げられてきたのに、読売販売店がやりますからいいですという話はないでしょう」とまで言い切る。

事実、太閤園の買い取り価格は、300億円以上とも言われ、さらに東電病院を東京建物へ売却した額相当を学会が負担したら100億円以上に及ぶ。立正佼成会のように、資金難から拠点改築を断念したような宗教団体に比べると、学会の〝資金力〟は群を抜いている。

「そのことを突っ込まれるのが、本当に嫌です。東京都の緊急事態宣言が解けないと、地方から直接訪問の形での投票依頼はできない。仮に6月20日より(解除が)延びたら、学会の人力作戦はまったくできません。こんなことは初めてですし、だからネットで、電話でという話になるんです」(茨城県の女性部活動家)

結果的に都議選は、「都内の創価学会員総体の地力」が問われる久々の選挙になるわけである。

前回、都民ファーストの会旋風が巻き起こったが、公明党候補は票数を伸ばしたうえで当選したケースが多かった。この時は、小池百合子都知事とは〝ゆるやかな与党〟を組み、自民党を敵視して現状議席維持に落ち着いた経緯がある。

今回は、かつての自公連係が復活し、反小池のスタンスに形式上はなる。首都圏の元公明党地方議員は、こんな分析をしてくれた。

「もちろん、政治風土が違うから一概には言えませんが、大阪での維新との関係を彷彿させますね。公明党は大阪都構想に反対→賛成と、くるくるスタンスが変わった。自民党に付いたり、維新に丸めこまれたりと、やられ放題。それで都構想の住民投票が佳境に入ると、公明党の山口那津男代表自ら大阪入りし賛成を訴えた。訴えた相手は、一般有権者でなく、むしろ創価学会員ですよ。その学会員の半分が反旗を翻して住民投票は敗北したわけです。今回、学会員が都議会自民党にどれだけ協力するか、まったく未知数といえるでしょう。これが分かっているから、公明新聞の紙面も、7選挙区は本当に危ないと危機感は物凄い。自党の負けは論外ですが、自民党が陥没したら、公明党の立ち位置がなくなってしまう」

危ない、圏外等々の表現は毎度選挙のたびに使われるフレーズだが、今回ばかりは深刻度が違うという。

常勝のシンボル、関西の創価学会が太閤園購入に腰を浮かせたのは想定内だが、その余波、「創価学会のハコモノ主義」がコロナ禍の都議選に大きな影響を与える結果となっているのは、想定外といえよう。
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