消えゆく花街、残る花街――ノンフィクション作家が見た“日本の異界文化”の現在地

『花街アンダーグラウンド』駒草出版 1,600円(本体価格)

『花街アンダーグラウンド』駒草出版 1,600円(本体価格)著者:本橋信宏
もとはし・のぶひろ:1956年生まれ。埼玉県所沢市出身。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。執筆内容はノンフィクション・小説・エッセイ・評論など。

経験者はごく少数…“お座敷”という閉ざされた世界

──今回は街ではなく、黒塀の先に向かいました。なぜ花街だったのですか?
本橋 これはひとえに、担当編集者・勝浦基明氏の「お座敷に一度でいいから上がってみたい!」という好奇心が出発点になっています(笑)。実際にお座敷で舞妓や芸妓と遊んだ経験を持つ人は、世間が思う以上に少ないようです。その意味で、花街のお座敷は今なお「異界」と呼ぶにふさわしい場所。「よし、ならば探ってみよう」という気持ちになりました。背中まで大きく開いた着物から白い肌がのぞき、そこに白粉を塗り重ねた10代の少女が、舞妓として酔客の前に立つ。世界的に見ても、花街は極めて希有なお座敷文化を持つ街です。あの襖の向こうで何が行われているのか。その問いに惹かれ、潜入を決めました。

──出身地の埼玉にも花街があったとか。飯能芸者は独自のブランドだったそうですね。
本橋 高校時代の旧友が教えてくれ、実際に当地を案内されました。地方都市における花街の存在はあまり知られていなかったので、貴重な体験でした。花街の存在は、そこに通う上客の数、質に影響されます。飯能は戦前から、林業、絹、鉱業などの産業が盛んで、現金収入が膨大だったため、地元で遊ぶ経済人が花街に現金を落とし、活況を呈してきました。東京から離れ、マスコミの目も気にならないので、政治家、財界人といった人々も羽根を伸ばしに来ていました。

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“遊びの場”から“文化資産”へ――花街の変質

──本書にたびたび登場する、向島に消えた元AV女優の行方が気になります。
本橋 彼女はバブル期に人気のあったAV女優でした。極めて社交的で、年上の実力者の懐に入る特異な色気と愛嬌がありました。きっと夜の世界から飛び込んで知らぬ間に大成功しているものだと思っていましたが、その後の消息は分かりませんでした。目的通り、エスタブリッシュメント側に入り込めたのかもしれないし、とっくに一般人と結婚して、今頃、普通の主婦業をしているのかもしれませんね。それはそれで幸せなことでしょう。

──本橋さんにとって花街は今、生きている場所と消えゆく場所のどちらに映っていますか?
本橋 祇園、赤坂、新橋、神楽坂…今なお活気を保つ花街がある一方で、つい最近まで命脈をつないでいた大塚からは芸者の姿が消え、花街そのものも途絶えてしまいました。現存する花街は、街全体が古典芸能のような存在になりつつあるので、希少価値がより高まり、消えることはないと思います。(聞き手/程原ケン)

(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」5月7・14日号より