【実録】温泉旅館の「困ったお客さま」 話し相手を要求した70代男性と女将の攻防

女将が思案 枕芸者か、純粋な寂しさか

仲居から報告を受けた女将は―
「てっきり枕芸者の類を所望しているんだと思ったんです。そういう男性、特におひとりでいらした方の中にはそれが目的の人も少なくないですから」

枕コンパニオンを呼べないこともないが、「やましい気持ちはない」「話し相手が欲しいだけ」と言っている男性にあてがって良いものなのかどうか…。

女将があれこれと思案している最中にも、男性から「話し相手になる女性を寄越してくれ」という電話がフロントに入る。

「何だかんだ言って、枕相手が欲しいんじゃないですか?」という番頭の声を聞いた時、女将の頭には「いつもは奥様と一緒だと言っていたから、純粋に寂しくて話し相手が欲しいのかも」という考えが過る。いずれにせよ、何かしら対処をしないと男性は諦めてくれそうにない。

「奥様に電話しましょうか」女将の一言で撃退

そこで女将は男性の部屋へ行き「おひとりで寂しいようでしたら、同行されるはずだった奥様にお電話でもしてみてはいかがでしょうか?」と声をかけた。

すると男性は「いや、里帰りしている娘と孫の世話で忙しいから」と躊躇。

「そうなんですよ。女はやることがあって忙しいんです。ですからお客様もおとなしくお休みになってください。どうしても女性をそばに置きたいと言うのでしたら、添い寝用の女性を呼ぶこともできますが?」と女将。

「いや、そういうのを求めてるわけではないんだ」

「先ほど仲居からもお話した通り、当館に対応できる女性従業員はおりません。いっそ、こちらから奥様の方に『ご主人が寂しがっておられます』とお電話入れましょうか?」

「いや、もういいよ」

いささか不満そうではあったが、男性はここで引き下がった。

「本当に下心がなかったのかどうかはわかりませんけど、『話し相手』のオプションなどはありませんので、諦めてくれてホッとしました」(女将)。

寂しがりやの男性にひとり旅は向いていないようだ。

取材・文/清水芽々

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清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。