西軍の首謀者は誰だったのか? “石田三成説”を覆す関ヶ原の真実

『シン・関ヶ原』講談社現代新書 1,000円(本体価格)

『シン・関ヶ原』著者:高橋陽介
たかはし・ようすけ:1969年静岡県生まれ。歴史研究者。東海古城研究会、佐賀戦国研究会、織豊期研究会、静岡県地域史研究会、関ケ原研究会に所属。著書に『一次史料にみる関ヶ原の戦い(改訂版)』(ブイツーソリューション)など。

「関ヶ原=豊臣vs徳川」はすでに否定されている

──そもそもなぜ関ヶ原の戦いに興味を持ったのでしょうか?
高橋 最初に興味を持ったのは、子供の頃に司馬遼太郎の歴史小説『関ヶ原』を読んだときです。2010年代になって笠谷和比古、光成準治、白峰旬をはじめとした研究者の本を読み、それまで漠然と持っていた関ヶ原に対するイメージが覆されました。より信頼できる史料によって、事実を解明するというスタイルに感銘を受け、あらためて関ヶ原の戦いに興味を持ちました。

──司馬遼太郎の小説『関ヶ原』は、いわばただの言い伝えだったとか。現在はどのような「通説」が正しいとされているのでしょうか?
高橋 関ヶ原については現在、研究者間で活発な議論がなされていて通説不在と言ってもよいでしょう。ただし、関ヶ原合戦が「豊臣対徳川」の戦いであるという見方は現在おおむね否定されていて、豊臣政権内の内部対立であるという見方が一般的です。また、小早川秀秋が合戦の途中で家康からの威嚇射撃によって裏切ったという有名な逸話、いわゆる「問鉄砲」も白峰旬によって後世の作り話であることが証明されています。

【関連】ヤンキーとは違う“いい子ちゃんじゃない女の子”に女子高生が熱狂! 1990年代に飯島愛が支持された理由

歴史ファンが受け入れた“新しい関ヶ原像”

──本書は「新しい関ヶ原像」を提示しています。
高橋 『シン・関ヶ原』はこうした先行研究の積み重ねを重視し、さらに踏み込んで新しい可能性を提示したものです。一次史料(同時代の書状など)を見る限り、「徳川家康対石田三成」の対立軸は確認できません。また、家康が秀吉の遺言により秀頼を補佐する立場の「天下人」だったと仮定するならば、西軍の挙兵は毛利輝元と奉行衆(増田長盛・長束正家・前田玄以の三人)によるクーデターとみなされますし、従来「豊臣家を見限って西軍を裏切った」とされていた小早川秀秋や福島正則が家康に協力する決断をしたことも違和感なく説明することができるのではないかと思います。

──司馬ファン、歴史ファンからの反応はどうでしたか?
高橋 多くの司馬ファン、歴史ファンから好意的なレビューが寄せられました。これは本当に有り難いことです。研究者としては司馬遼太郎『関ヶ原』のストーリーをおおむね否定することになってしまいましたが、筆者である私も司馬『関ヶ原』によって歴史に興味を持ち始めたファンの一人です。今後も物語としての関ヶ原は尊重したまま、一次史料を用いた研究成果と共存していくのが理想であると考えています。
(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」4月2・9日号より