鍵山優真、父と歩んだ34年の結実。14日未明フリーで運命の演技へ

画像はAIで生成したイメージ

イタリア・ミラノのリンクに立つ鍵山優真――その背中には、もう一人の男の影が寄り添っている。コーチであり、実の父である鍵山正和氏だ。

1990年代、日本フィギュア界の先駆者として二度の五輪に挑んだ父。その父が果たせなかった「五輪の頂」を、息子が引き継ぎ、今まさに完結させようとしている。

日本時間2月14日(土)、午前3時から行われる運命のフリープログラム。そこには、得点や技術だけでは語り尽くせない、濃密な父子の歳月が刻まれている。

「父の背中」を追い続けた少年時代

全日本選手権3連覇を果たし、“天才”と呼ばれた父・正和。しかし五輪では世界の壁に阻まれ、最高位は13位。その悔しさと情熱は、静かに息子へと受け継がれた。

優真がスケートを始めた頃から、父子は常に二人三脚だった。父譲りの深く柔らかな膝の使い方。氷を滑る音さえ美しいスケーティング。それは、昭和から平成、そして令和へと受け継がれてきた「鍵山家の血」の証でもある。

しかし、その歩みは順風満帆ではなかった。父が病に倒れ、リンクに立てなかった時期、優真は一人で氷に向かい、父の教えを反芻し続けた。

親から受け継いだものを守り、次の世代へつなぐ——その重さを知る人なら、この時間がどれほど深いものだったか想像できるだろう。

鍵山親子にとってスケートは、競技であると同時に“対話”でもあった。

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逆境を超え師弟の絆が生んだ“成熟”

2022年北京五輪で銀メダルを獲得した当時18歳の優真は、世界を驚かせた。

しかしその後、左足の負傷による長期離脱が訪れる。リンクを離れ、焦燥感に駆られる息子を支え続けたのは、やはり父だった。

「焦るな。お前の滑りは変わらない」

その言葉を信じ、基礎からスケートを見つめ直した時間は、若者に“成熟した表現力”をもたらした。

今大会の鍵山は、かつての勢い任せのジャンプではない。一蹴りでリンクを端まで滑り抜ける伸びやかなスケーティング。音楽に寄り添うような情感豊かな表現。それは、病や怪我という逆境を父子で共有したからこそ到達できた境地だ。

34年前、父がアルベールビル五輪で見た景色。その続きを、今、息子がより高い場所から見つめ返そうとしている。

父の夢を“超える”瞬間

冒頭でも記したが、男子フリーは日本時間2月14日(土)の午前3時から開催される。最大の焦点は、「4回転の神」イリア・マリニンとの頂上決戦だ。

圧倒的な跳躍力で得点を積み上げるマリニンに対し、鍵山は「プログラム全体の完成度」 「滑りそのものの美しさ」 で勝負する。

古き良きフィギュアスケートの美学と、現代の超絶技巧。その二つが正面からぶつかり合う、歴史的な一戦になるはずだが、深夜のテレビ画面越しに、私たちはきっと目にすることになるだろう。演技を終え、リンクサイドで待つ父のもとへ歩み寄る息子の姿を。

結果がどうであれ、そこには父子でしか分かり合えない“完結のドラマ”があるはずなのだ。

その目撃者となれるのは、深夜の観戦に挑んだファンに与えられる特権と言えるかもしれない。