無謀な挑戦から生まれた? 清朝を舞台にしたミステリー小説『最後の皇帝と謎解きを』誕生秘話

『最後の皇帝と謎解きを』宝島社 1,600円(本体価格)
『最後の皇帝と謎解きを』著者:犬丸幸平
いぬまる・こうへい:1994年、大阪府箕面市出身。神奈川県川崎市在住。京都産業大学英米語学科卒業。在学中からバックパッカーに夢中になり、中東、南米、アフリカなどを中心に約40カ国を訪問。現在はパキスタンで絨毯の買い付けなどをしている。

40カ国放浪が創作の原点

──なぜ清朝を舞台にしたのですか?
犬丸 幕末以降の近代史に興味があったので、最初は満洲国を舞台にしたミステリーを書こうと思っていました。物語を書くにあたり、その前史も勉強しようと思い浅田次郎先生の『蒼穹の昴』と出会ったことから、清朝に強い関心を持ちました。今になって振り返ると、応募締め切りが迫るなかで、ほとんど知識のない清朝を舞台に物語を書こうとしたのは、かなり無謀な挑戦だったのかもしれません。それでも当時の自分は無我夢中でした。何度か諦めそうにもなりましたが、その度に『蒼穹の昴』の主人公・春児に勇気をもらい、最後まで自分を奮い立たせることができました。

──大学時代に訪れた中東や南米の体験が創作の源になっているとか?
犬丸 南米での経験が印象に残っています。ペルーのリマから反時計回りに一周して、4カ月かけて戻ってきました。南米ではバス移動が主流で、24時間近く乗車していたこともあります。途中で泥濘にはまった車体を乗客全員で押したり、乗車中に武装した軍人がバスに乗り込み、1人ずつ検査をしていくといった緊迫した場面もありました。当時はまだ作家を志していたわけではなく、旅の体験がそのまま創作につながったわけでもありません。ただ、さまざまな国を歩き、出会った人々との交流を通じて、人種を越えた関係や差別の問題が、自分の中に強く残りました。そうした記憶が、今回の受賞作で描いた「廃帝・溥儀と日本人絵師の友情」というテーマの着想に、少なからず影響を与えているのかもしれません。

紫禁城のリアリティーを追及

──物語を書き進める中で、苦労した点は?
犬丸 当時の北京や紫禁城の文化、しきたりを調べるのには苦労しました。例えば女官が着る服はどのようなものなら問題がないのかといった風俗的な細部まで確認する必要があったからです。そうした部分をおろそかにするとリアリティーが崩れてしまうため、細心の注意を払いました。

──次回作の構想はありますか? 
犬丸 まだ具体的には決まっていませんが、歴史ミステリーを中心に考えています。その時代でしか成立しない謎解きやトリックを考えながら、当時の人々の思いに焦点を当て、読み応えのある小説を書きたいですね。自己満足で終わらず、読者の皆さんが楽しめる作品は何かを強く意識して、次の作品に臨みたいと思っています。

聞き手/程原ケン

「週刊実話」2月5・12日号より