エンタメ

『グリード ファストファッション帝国の真実』/6月18日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

『グリード ファストファッション帝国の真実』/6月18日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義
Ⓒ2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

『グリード ファストファッション帝国の真実』
監督&脚本/マイケル・ウィンターボトム
出演/スティーヴ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソン、エイサ・バターフィールド
配給/ツイン

映画タイトルの「グリード」って「強欲」っていう意味なんですね。ファストファッション帝国を一代で築き上げた還暦男の没落どころか、もっと大変なことが起きるまでを描いた本作。

コテコテの労働者階級である自分には、格差社会の頂点にいるブルジョア階級が破滅していく姿は、痛快ですらありました。

セレブ焼けした肌に、真っ白すぎる義歯、若くて美しいトロフィーワイフが自慢の主人公リチャード・マクリディ卿。彼が若い頃から、いかに傲慢でセコくて見栄っ張りなヤツか、リチャードの伝記を執筆するために雇われた作家の目を通して徹底して描かれますが、何と言っても彼の悪趣味が象徴されるのはギリシャ・ミコノス島で開催される還暦パーティー。コンセプトは古代ローマ帝国。島の美しいビーチに、映画『グラディエーター』を模して円形闘技場を、やっつけで建造するんですが、現場監督のギリシャ人とブルガリア人労働者の言葉が全く通じず、いつまで経ってもベニヤ板のまま。これ、間に合うのかなと、変なところでハラハラさせられます。

そして、ゲストとして大物芸能人が次々と登場…のはずが、断られまくって、ビデオメッセージと数人のそっくりさんの出演だけに。

『ユニクロ』柳井会長はどんな感想を持つだろう

あまりにベタでバカバカしく笑えてきますが、実は誇張でも何でもない。カルロス・ゴーンのベルサイユ宮殿貸切り結婚式に象徴されるように、豪華クルーザーも贅沢三昧のパーティーも、セレブ連中にとってはこれが日常。コロナ禍でアパレル業界は大打撃。さらにファストファッションの不法労働問題などが明るみに出て一時の勢いは失われている中、独り勝ちの様相の『ユニクロ』柳井会長なら本作にどんな感想を持つのだろうと、つい考えてしまいました。「うちはファストじゃなく高品質の必需品。同じにしないでくれ」と言われるかもしれません。

そういえば以前、グルメ雑誌の主催で、仮想通貨の成功者ばかりを集めた、フレンチレストランでのパーティーにつき合わされたことがあります。自分は、別フロアで食事を楽しんでいたのですが、誘われるがままのぞいてみると…その連中ときたら、ソムリエとワイン談義をしたり、金目当てに群がってきた美女たちとジャレ合ってたりと、絵に描いたようなプチ成金っぷり。本当にこういう世界があるんですね。

…といって、誘ってくれた出版社の手前、つっけんどんな態度もできず。この映画で古代ローマ時代の奴隷の格好でパーティーのサクラをさせられていたシリア難民の気分でした。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

あわせて読みたい