ツッパリでも純愛でもない!?『北ウイング』が切り開いた中森明菜“アダルト路線”の衝撃

中森明菜『北ウイング』
【スージー鈴木の週刊歌謡実話第20回】中森明菜『北ウイング』作詞:康珍化、作曲:林哲司、編曲:林哲司 1984年1月1日発売

ソングライターチームの人選と楽曲タイトルを自ら発案

明けましておめでとうございます。スージー鈴木の『週刊歌謡実話』、今年もよろしくお願いします。

新年1発目ということで、元日=1月1日リリースの曲を選んでみました。

「元日なんて、レコード屋は閉まっていただろう」と思う方が多いかもしれませんが、昭和の音楽業界をよく知る人に聞いたら、いわゆる「お年玉需要」狙いで、開いている店も案外多かったそうですよ。

そんな「元日発売歌謡」ですが、その代表といえば、沢田研二『TOKIO』(’80年元日発売)か、この曲でしょう。中森明菜を一段上のステージへと旅立たせた1曲です。

『セカンド・ラブ』(’82年)を取り上げたときにも書いたように、初期・中森明菜はシングルにおいて、『少女A』(同)に象徴されるツッパリ路線と『セカンド・ラブ』的、しっとりとした純愛路線を交互にリリースすることで、人気の地盤を固めていきました。

そしてついに、’84年の幕開けとなる日に発売されたこの曲で、ツッパリでも純愛でもない路線を選んだのです。あえていうならば「アダルト路線」とでもいうべき新しい鉱脈の発見。

重要なこととして、この時点で中森明菜はまだ18歳。弱冠18歳にして、こんなにアダルトな『北ウイング』なのですから、驚きますよね。

それどころか、ソングライターチーム=康珍化と林哲司の人選も中森明菜本人によるもので、さらには「北ウイング」というタイトルも、明菜自身の発案だったといいます。まさに恐るべき18歳!

タイトルが元々の「夜間飛行」から変わった理由

「北ウイング」とはもちろん、成田空港第1ターミナルに現在も実在するそれです。というか、まだ第2ターミナルなんてなかった時代の話(完成は’92年)。

なんでも、元々は『夜間飛行(ミッドナイトフライト)』というタイトルだったらしいのですが、「北ウイング」の方が、引っ掛かりがあるし、インパクトも強い。

そしてボーカル。歌い出し「♪Love Is The Mystery」の安定感というか貫禄はどうでしょう。さらにエンディング、英語のコーラスと、中森明菜のソロが張り合っているところは、何度聴いてもゾクゾクします(4分あたり)。

ソングライターチームを自分で決めて、それどころかタイトル自体も自分が発案。そして「♪Love Is The Mystery」という大人っぽい世界を、堂々と歌い上げる――。

そんな、まさに恐るべき少女が、元日の北ウイングから、’84年の音楽シーンのど真ん中へと旅立った1曲なのでした。

なお、同年発売のアルバム『POSSIBILITY』には『ドラマティック・エアポート―北ウイングPartII―』というアンサーソングが入っています。こちらも必聴。

最後に余談。お正月といえば、芸能人の成田空港出国ラッシュがワイドショーの定番でしたが、最近は、成田や羽田からの映像、とんと見なくなりました。やっぱり長引く不景気が響いているのかしら。

「週刊実話」1月22日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。