「“暴力団”では括れない人間的な面白さがありました」ヤクザ取材歴45年のベテラン記者が語る“俠たちの真実”

『私が出会った究極の俠たち 泣いて笑ってヤクザ取材45年』徳間書店 1,800円(本体価格)
『私が出会った究極の俠たち 泣いて笑ってヤクザ取材45年』著者:山平重樹(やまだいら・しげき)
1953年山形県生まれ。法政大学卒業後、フリーライターとして活躍。ベストセラーとなった『ヤクザに学ぶ』シリーズほか著書は多数に上り、『愚連隊列伝 モロッコの辰』など映像化された作品も多い。

「長く続けてこられたのは、やっぱり人間が好きだったから」

──ヤクザ取材を始めてから45年になるそうですね。最初はなにがきっかけだったのですか?
山平 『週刊実話』のヤクザ担当デスクと知り合い、取材を手伝ったのが初めてです。もともと任俠映画のファンではあったのですが、現実のヤクザとは異なる世界だろうと思っていました。が、実際に取材してみると一括して“暴力団”では括れない人間的な面白さがありました。現場はとにかく初めてのことばかりで、当時の私はビビりっぱなし。それでも長く続けてこられたのは、やっぱり人間が好きだったからでしょうね。

──ヤクザを取材する際に、心がけていることは?
山平 取材をさせてもらう以上、ヤクザだろうと一般人だろうと関係ありません。きちんと礼を尽くして真摯に向き合うよう心がけています。誠実に向き合えば、必ず得るものがあり、心に残る話を聞かせてもらえるものです。

“伝説のヤクザ”安藤昇との秘話

──これまで会った中で、特に印象に残っている人は誰ですか?
山平 山口組二代目小西一家総長の落合勇治総長のことは忘れることができません。落合総長は一家の抗争事件に絡んで、若い衆に報復殺人を指示したという組織犯罪処罰法違反の容疑で逮捕・勾留されました。シャバでは面識はなく、5回ほど面会しただけですが、いつも自然体で、とても人懐っこく、最初から懐かしみを感じる人でした。お会いしたときは事件のことを知らなかったのですが、興味を持って調べてみると、冤罪の可能性が極めて高い。というより冤罪ですよ。すでに通算獄中生活は45年にも及びますが、並の人間なら気も狂わんばかりの試練と言えるでしょう。現在78歳になりますが、その不屈の精神力には、頭が下がるばかりです。

──本書には安藤組組長の安藤昇氏も登場します。ちょっとした“共通点”があったのだとか。
山平 実は若い頃、あの方に魅了され、安藤昇に憧れて法政大学に入ったのだと吹聴していました(笑)。当時はただの映画スターへの憧れにすぎませんでしたが、元安藤組組長という肩書が示す通り、彼には本物だけが放つ独特の存在感、真性不良のオーラがあり、その魅力にすっかり惹き込まれてしまいました。忘れもしない昭和62(1987)年12月16日、知り合いの雑誌編集長から「安藤先生が、ヤクザの部屋住みだった若者の話を聞きたいと言っている。話をしてもらえないか」と依頼を受けました。緊張でうまく話せない私に、安藤氏は穏やかにうなずきながら「ほう、面白いな」と相槌を打ち、最後まで真剣に耳を傾けてくれました。その温かな姿勢に、胸を打たれました。あの日の出来事は、今も心に残る大切な思い出です。

(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」1月1日号より