歪んだ狂気が5歳児を生きたまま川へ…「功明ちゃん事件」に残る県警の失態と北関東連続殺人との関連性

「今日夕方6時までに1000万用意しとけ」

38年前の高崎の夕暮れには、確かに「魔」が潜んでいた。事件現場の入の谷津橋のたもとには、幼い魂を慰霊する小さな地蔵が今も佇む。功明ちゃんが存命であれば43歳、傍らには、あの日の被害者によく似た愛児がいたかもしれない。

インターネット上には今も、群馬県警が公開した脅迫電話の犯人の肉声が残る(https://www.youtube.com/watch?v=uIMB5rqpJ6c)。

「もしもし、荻原か。今日夕方6時までに1000万用意しとけ。また電話かける」。誘拐翌々日の朝、最後の脅迫電話。男が一方的に言い置いて電話を切るまで約27秒、絞り出すような不気味な低音が耳の奥に張り付く。

この時点で既に功明ちゃんは殺害されており、犯人が身代金を受け取ることはなかった。犯人と家族との通話は計4回だが、その指示は極めて場当たり的で身代金受け渡し場所の言及もない上、当初2000万円を要求しながら誘拐の翌日が祝日(敬老の日)で金融機関が休みであることも逆に指摘されるまで気づいていなかった。目的は本当に金だったのだろうか。

群馬・栃木・茨城の北関東3県では’79年から’96年までの間に功明ちゃんを含む11人の子供が殺害または失踪し、そのすべてが未解決という異常な状況にある。

功明ちゃん誘拐の翌日には同じ群馬県の新田郡尾島町(現・太田市)で当時8歳の大沢朋子ちゃんが失踪・殺害された(身代金要求なはし)が、やはり犯人は分かっていない。

これら未解決事件のうち、「朋子ちゃん事件」や冤罪が確定した「足利事件」など5事件は「北関東連続幼女誘拐殺人」として関連性が取り沙汰されるが唯一、被害者が男児である功明ちゃん事件は範疇外の扱いだ。

しかし、その見方は正しいのだろうか。5歳児を生きたまま川底に投げ落とす歪んだ狂気が、別の捌け口を求めることはなかったのか。昭和末期に置き去りにされた大きな謎である。(一部敬称略)

取材・文/岡本萬尋