「最大の存在は吉田拓郎」音楽評論家が“日本ポップス史”を徹底解説!

『日本ポップス史 1966-2023あの音楽家の何がすごかったのか』NHK出版 1,030円(本体価格)
『日本ポップス史 1966-2023あの音楽家の何がすごかったのか』著者:スージー鈴木
1966年、大阪府東大阪市生まれ。音楽評論家、ラジオDJ、作家。早稲田大学政治経済学部卒業。昭和歌謡から最新ヒット曲まで音楽性と時代性を考察。週刊実話で「スージー鈴木の週刊歌謡実話」連載中。

過小評価されている有名音楽家

──1966年のかまやつひろしを「起点」にしたのはなぜですか?
スージー「自作自演の先駆けというだけでなく、同時期の加山雄三、荒木一郎、井上忠夫に比べてオリジナリティーにあふれていたこと。加えて、音楽マニア向けの雑誌などで、彼の才能があまりにも軽んじられている、というより、そもそも知られていないことも意識しました。本来『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』(’66年)は、はっぴいえんど『風街ろまん』(’71年)と同じ熱量で語られるべきです」

──「ポップスター」として吉田拓郎を評価していますね。
スージー「かまやつひろし、加藤和彦が作った基盤をコンクリートで一気に固めて『戦後生まれの若者による自作自演音楽』=『ニューミュージック』という壮大な音楽市場を基礎付けた人と捉えます。明らかに日本ポップス史における最大の存在と言えるのに、正しく評価されているとは言い難い。同様に、キャロルとそのボーカル・矢沢永吉、桑田佳祐も、まだまだ功績が正確に捉えられていないような気がします」

音楽ファンに根付く「はっぴいえんど中心史観」

──スージーさんにとって特に印象深い音楽家は誰ですか?
スージー「本書では、現代の日本の音楽ファン(特に若い世代)の間で強く根付いている『はっぴいえんど中心史観』に対して、その偏りを指摘し批判しています。けれど実を言えば、私自身、はっぴいえんどや大滝詠一が大好きでたまらなかった少年でもありました。数あるはっぴいえんどのアルバムの中で1枚選ぶとすればもちろん『風街ろまん』。1曲選ぶとすれば『抱きしめたい』ですね。本書は、吉田拓郎からVaundyまで数多くのアーティストが登場しますが、実は『はっぴいえんど中心史観』に染まりまくった私の自己批判書でもあります(笑)」

──サブスクが登場して音楽が変わったというのは?
スージー「古今東西の過去の名曲を、ほぼ障壁なしで聴けるようになったことが大きいですね。そんな中、藤井風や米津玄師、星野源やVaundyと、感度の高い音楽家が、それら名曲の養分を一気に吸収して、かつてない音楽を作っている。とても素晴らしいことだと思います。ですから、私と同世代の方には本書をきっかけに若い世代の音楽に触れてほしいですし、逆に若い方には、少し風変わりな“参考書”のように使って、サブスクなどを通じて過去の音楽にも親しんでもらえたらうれしいですね」

聞き手/程原ケン

「週刊実話」12月18・25日号より