オダギリジョー、満島ひかり、柴咲コウ…絶妙なキャスティングの『兄を持ち運べるサイズに』は疎遠となった家族の機微を描く物語

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【やくみつるのシネマ 小言主義 第289回】『兄を持ち運べるサイズに』
ある日、村井理子(柴咲コウ)のもとに警察から電話が入る。それは、疎遠になっていた兄(オダギリジョー)が死んだという知らせだった。急きょ東北へ向かった理子は、警察署で7年ぶりに兄の元妻・加奈子(満島ひかり)と、娘の満里奈(青山姫乃)と再会。3人は、ゴミ屋敷と化したアパートを片づける中、兄の悪口を言い続ける理子に、加奈子は「もしかしたら、理子ちゃんには、あの人の知らないところがあるのかな」と言う。これをきっかけに、理子たちは家族を見つめ直すことになる。

元嫁の立ち位置を繊細に表現する満島ひかり

血で血を洗う映画や、ドンパチ映画も見ますけれど、この年齢になりますと「人の心の機微を描く作品の方が安心して見られるなぁ」と改めて思った本作。身につまされるというか、自分にフィードバックしながら見ました。

作家である主人公の理子は突然、長らく音信不通だった兄の急死を警察から告げられる。7年ぶりに会った兄の元嫁と共に、兄を荼毘に付し空家となったゴミ屋敷を片付けながら、絡まった複雑な思いをほどいていく4日間の物語。

パンフレットに「明日のあなたの真実になるかもしれない」と書いてありましたけれども、ディテールは違うものの、近い事態に直面していることもあり、余計に自分事として見ました。

自分には妹が1人いるのですが、年イチで連絡があるかどうか。顔を合わせるのは親の法事のときぐらいという距離感にあります。最近、ちょっとした用事があり、連絡してみたら電話に出ない。心配になって甥っ子にも連絡してみたら、入院中でどうもよろしくない状態のようなんです。

映画と同じような問題に直面していますので、本作のストーリーを目で追いながら、妹に対してああすればよかった、それともこうすれば…と逡巡。どうしても深く感情移入してしまいました。

映画のキャスティングも絶妙な効果を発揮していましたね。ダメ兄の不器用な生き方を魅力的に演じるオダギリジョー、元嫁の立ち位置を繊細に表現する満島ひかり、そして美貌を封じて普通の中年女性・理子を丁寧に演じる柴咲コウ。実にいいアンサンブルでした。

「兄弟は他人の始まり」とはよく言ったもので、子供の頃、あんなに長い時間を一緒に過ごしたけれど、それぞれに家庭を持てば、多くの場合どんどん関係は希薄になり、限りなく他人に近づきます。

また、私ごとですが、自分の母が亡くなったときにはまだ母の兄弟は存命でしたけれど、それぞれ事情があって東京にまで来られなかった。結局、葬儀に参列してもらえたのは叔父1人でした。

年をとると、家族全員が集まるということ自体が難しくなります。これはまさに「誰にでも起こり得る問題」ではないか。

そうそう、兄のゴミ屋敷を片付けるシーンがありましたが、その点でも自分にとって他人事じゃありません。膨大な本と、他人にとってはゴミとしか思えないコレクションがありますから。残された人は、どんな価値があるかなんて分かりっこない。

カミさんとはいつも「先に逝ったもん勝ち」「私が先に逝く」と言い合っています。

『兄を持ち運べるサイズに』
監督:中野量太
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大、斉藤陽一郎、岩瀬亮、浦井のりひろ(男性ブランコ)、足立智光、村川絵梨、不破万作、吹越満
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

「週刊実話」12月18・25日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。