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創価学会と総選挙の“裏”《前編》菅義偉首相の豹変~ジャーナリスト山田直樹

次なる異変が起きたのは、7月8日の創価学会方面長会議。創価学会の対政権部門を担う佐藤浩副会長が、党への根回しなどなく、いきなり「小選挙区候補予定者は個人後援会を作るべし」とぶち上げたのだ。

「実は、これはかなり前からシミュレーションしていた方向性でもあります」

と、明かすのは信濃町創価学会本部関係者。

「公明党は地方議員まで含めれば、個人後援会はそれなりに存在しているんです。例えば、出身校の同窓会母体の応援組織や資格関係(会計士や税理士など)の支える会とか、規模こそ小さいけれど後援会を持っている議員はそれなりにいます。形式的には学会組織つながりとは別ルートの応援団と言っていい。ただ、得票数はどんどん落ちている。国政選挙の度に、『議席は取ったが…』と溜息が出る状況に変わりはない。打破するには、候補者と支援者の一体感を再構築する必要があります。公明党議員が、『党の自立』などと言わないうちにタガを嵌める必要もある。学会選挙に身を預けるのではなく、もっと議員に汗をかいてもらうには、議員なりの努力の仕方があるだろうという狙いですね」

公明党票は、創価学会の力量を推し量る重要な指標だ。2005年の郵政選挙で比例区総得票数898万票をピークに、一時の持ち直しはあるものの、一貫して数が減っている。

特に大阪、東京などの参院選地方区での票の減りは激しい。創価学会は、都市型宗教と呼ばれて久しいが、その拠点での目減りが激しいのだ。

創価学会の主張を丸呑みする菅首相

「次の総選挙で気になる選挙区は、いくつもあります。北海道10区は、野党統一候補とのガチ。大阪の小選挙区3つに、あくまで『大阪都構想に反対する』として、自民党府連が保守系無所属候補を充ててくる可能性もある。11月1日の住民投票でノーが出た場合、この動きは加速するでしょう。国政では自公、でも、大阪は維新と公明タッグというねじれがある。しかも、維新は東京12区で対公明の候補を立ててくる。だから、創価学会員個々人に奮起を促すわけです」

日本の国政政党で個人後援会がないのは、共産党のみ。公明党もついに〝並の政党化〟したわけである。しかし、なぜ今なのか、それで選挙力がアップするのかという疑問は、創価学会会員自身からふつふつと湧いてくる。

「5万円以上寄附すると、政治資金収支報告書に氏名と住所が記載されてしまう。寄附する本人が、思い切って別の選挙区の特定候補を応援するケースも出てきます。そうなると、『どこそこの誰が創価学会員、あるいはシンパか』がバレバレになる。会社を経営するような資産家も会員にはいますからね。今までは、ボランティアで交通費などを負担して、選挙活動を行ってきました。これからは、5万円未満でも、寄附が求められるんじゃないか。後援会費という名目で、金集めがあるかもしれません」

このような吐露は、特に壮年部や婦人部の知り合いから異口同音で聞かされた。

1998年、竹入義勝・元公明党委員長は「回顧録」の中で『(公明)党と学会は放射線のような一方的関係であり、いずれ党が自立した国民政党になるべきだ』という主旨の記述を残している。さらに、その23年前、共産党と創価学会は「協定」を結び、相互に攻撃しない旨を約束している。

この時は、野党と野党の支持母体の協定だったが、竹入氏の願いとはまったく反対の方向へ創価学会の舵は切られた。

言い替えれば、「史上初めて、創価学会の主張を丸呑みする官房長官が、総理大臣になった」のだ。

反面、組織票を売りにする創価学会の選挙力は、大きな曲がり角に差しかかっている。

(後編に続く)

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