
緑が眩しい谷間に響く鳥のさえずり。岩間を縫って先を急ぐ清流のせせらぎ。川面から立ち上る清水の香りと足先に伝わる冷ややかさ。そして、固唾を呑みながら魚が食いつくのを待つ間の静かな興奮…。
己の五感を総動員して無心になる極めて贅沢な時間に、「いやぁ、釣りって本当にいいもんだ~」と思わず呟いてしまいます。ワタクシの釣り歴もかなり長くなりましたが、海・山・川とそれぞれに魅力があってその多様さには感服するばかりです。
前回は初夏の兆しに誘われて、群馬県を流れる桐生川で、〝清流の涼〟を満喫しました。今回は、その後に〝もうひと遊び〟したお話です。
清流でアブラハヤと戯れてとりあえず満足はしましたが、ワタクシにはひとつ思い残したことがありました。実は、最寄りのバス停からの道すがらに見たドブ川での光景です。川面をのぞき込んだ瞬間に見えた魚影は、清流で確保したアブラハヤより大きいように見えたのです。いや~、釣り好きとしては非常に気になります。
「見える魚は釣れない」
昔から、釣りの世界ではよく言われている格言です。ただ、これはケースバイケースであり、真理であるとは言い切れません。見えた魚影は相当数だったこともあり、上手くやればそのうちの数尾は釣れるでしょう。
どちらかと言えば、水深30センチ弱の浅いドブでどうやって釣るかのほうが問題です。こういった浅い水辺はサギやカワセミなどの鳥類のエサ場になりやすく、そこに生息する魚は上方に対する警戒心が極めて強いのです。一度でも警戒させてしまうとエサを食わなくなってしまいますから、さてどうしたものか…。
逃げ惑う魚群は小型ばかり!?
ということで、気になっていた旧桐生女子高の裏手を流れるドブへと戻ってきました。魚を警戒させないよう、そ~っと身を乗り出してのぞき込みます。スカム(汚泥が炭酸ガスとともに浮上した塊)の浮かぶ淀んだ水の中を、ワワ~ッと逃げ惑う魚影…。先ほどまで釣っていたアブラハヤよりも、ずいぶん大きな個体も確認できました。

とりあえず、水際より二歩ほど下がった位置からウキ仕掛けを落とし込みます。水際に立たないのは自分の影を落とさぬための対策であり、そのぶん長めの竿を使って細心の注意を払います。首を目いっぱい伸ばして流れるウキをのぞき込んでいると、やがて左右に鋭く動きました。反射的に手首を返すと「ブルブルッ!」と小気味よい手応えが伝わって釣れたのはカワムツです。ただ、先ほど何尾か見えた大型個体ではありません。
「もっと大きいの、食って来んかい!」
気合を入れて再び仕掛けを振り込むと、すぐにウキが沈みました。ただ、サイズダウン…。数は多いもののなかなか良型が掛からず、しかも数尾釣ると警戒心が強まるのか反応が消え失せます。嗚呼…。
こうなるとアツくなるもので、場所をズラしながらソロリソロリと竿を出しては数尾釣り…を繰り返します。すると数回の反復の後に、それまでにないほど勢いよくウキが引き込まれました。こ、これはっ!
「キュキュ~ン!」

竿をあおった瞬間に鋭い手応えが伝わり、直後にドブの中でキラリと横走りする魚影が見えました。それまでよりも格段に大きい、16センチほどのカワムツに大満足であります。
淡白な身は微かに泥臭い…
それにしても、旧女子高裏のスカム漂うクソ浅いドブで、必死に首を伸ばしながら長い竿を振り回すオッサン…。かなりの不審者に見えたことでしょう。
しかしまあ、清流の涼もよいものですが、ドブの涼もこれはこれで夢中になるものです。いやぁ、釣りって本当にいいものですね。
ということで納得の1尾に満足して納竿。桐生のご当地グルメ「ひもかわ」なぞを堪能した後、帰途に就きました。

帰宅後、殊勲のカワムツを塩焼きにして晩酌を楽しみます。チビリと日本酒をやりながらカワムツをつまみます。淡白な味は悪くありませんが、やはり生息環境が影響するのか少々泥臭いような…。
とはいえ物は考えようです。このニオイが鼻孔をくすぐる度に、水面で勢いよく消し込むウキが思い出され、なんだか幸せな気分になってしまうのです。まぁ、酔いが回っているだけなのでしょうが…。
「清流とドブ」。環境的には両極端ではありますが、どちらも夢中になる川釣りを楽しむことができた初夏の一日でありました。
三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。
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