
政府の中長期的な経済財政運営の基本方針を示す「骨太の方針2021」は、今月末の策定に向けて詰めの議論が進められているが、5月25日に行われた第7回の経済財政諮問会議に麻生太郎財務大臣が提出した資料で、おおよその方向性が見えてきた。
資料の概要は次のようなものである。
〇低金利下で国債増発のコストを感じにくいが、悪化した財政状況は、将来への負担先送りのみならず、現時点でもコストやリスク。
〇社会保障の受益と負担の不均衡は、現役世代の保険料負担の増加や将来不安に伴う消費の抑制を通じて、経済を下押し。
〇新型コロナ対応による短期国債の大幅な増発は、市中発行額の高止まり、金利変動に対する脆弱性をもたらしている。
〇公債等残高対GDP比については、成長実現ケースでも、金利がわずかにでも成長率を上回る場合には、上昇。PBの赤字幅が大きいと、成長率が金利を上回る場合でも上昇。さらに、成長実現ケースに達さないリスクがあることも認識する必要。
〇以上より、歳出・歳入両面の改革により、社会保障制度の持続可能性を高めるとともに、PBを黒字化し、新規国債発行額の総額を確実に減らすことが必要。
役人の文章に慣れていない人のために、私なりに意訳すると、こういうことになる。
《いまの社会保障や財政は一見うまく行っているようだが、大きなリスクをはらんでいる。社会保障の給付水準の引き下げや高齢者の自己負担増を断行しないと、将来の負担増につながり、それを心配した現役世代が貯蓄に走るので、消費が低迷してしまう。
財政に関しては、経済規模に見合った国債残高にするだけでは不十分で、財政収支を黒字化して、新規国債発行額そのものを減らさないといけない》
死刑宣告をするに等しい政策
新型コロナウイルスの影響で国民生活が疲弊するなか、社会保障カットと大増税の方針を打ち出しているのだ。増税は、コロナ特別所得税になる可能性もあるが、最も可能性が高いのが消費税の引き上げだろう。コロナ禍で困窮しきった中小企業や家計に、死刑宣告をするに等しい政策だ。
どうして政府は現実を見ないのだろうか。東京都でいうと、1月7日に発出された2回目の緊急事態宣言は3月21日に解除されたが、4月12日から「まん延防止等重点措置」が始まり、4月25日には3回目の緊急事態宣言に切り替わって、それが続いている。これに東京都独自の自粛要請があるため、今年に入って自粛がかかっていない日は、まったくないことになる。
今年のほうが企業経営や国民生活への影響がはるかに深刻なのに、昨年に行われた持続化給付金や特別定額給付金を再支給する話は出てこない。
唯一の対策は、緊急小口資金を限度額まで借りていて、収入が生活保護水準、預貯金が100万円以下で、ハローワークで求職している世帯を対象に最大30万円を給付する案だけだ。対象は20万世帯、予算規模は500億円という。つまり、特別定額給付金の20分の1以下の給付しか政府は考えていないのだ。
財務省の最大の問題は、コロナ禍で分かった財政学の大発見を無視していることだ。今年3月末までの1年間で、国の借金は102兆円も増えた。しかし、国債の暴落もハイパーインフレもまったく発生しなかった。世界でも同じことが起きている。
にもかかわらず、均衡財政という時代遅れの理論に固執する財務省は、もはや解体するしかないのかもしれない。
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