本好きのリビドー/悦楽の1冊~『生き抜くための俳句塾』(左右社:北大路翼 本体価格1600円)

池波正太郎や立原正秋の食と味にまつわるエッセイを読めば、たちどころに真似して一杯やりたくなる。小林信彦や蓮實重彥の映画評論を読めば一刻も早く、作品は何でもいいから劇場に駆けつけたくなる。

同様に本書読了の暁には、四の五の言わず、とにかく無性に一句、衝動的に詠みたくなるはずだ。友人仲間でメンバーに誘えそうな顔が思い浮かぶようなら、間違いなく句会も開きたくなるだろう。その点で著者は対世間的に俳句の世界における最良のアジテーターなのはまぎれもない。

いちいち腹にコタえる台詞の清々しさ

口調こそ一見ぶっきらぼうだが、実際、きわめて親切な構成。〝俳人になるための心構え一〇箇条〟と題された冒頭から、さながら殺し文句のオンパレードぶりに痺れる。問題は、俳句の作りかたが分からぬことより「感動の仕方が分からない」ことと説き、「いかに無駄なことに有限の時間や金を使えるかで人間の価値が決まる」(その通り。涙目で同意)「道楽は欲望の肯定である」「俳句も肯定だ」(何だか〝落語とは人間の業の肯定〟と語った立川談志師匠みたいになってきた)。「謙虚さは傲慢である」「本当の一流は二流を馬鹿にしたりしない」「思い立ってすぐ帰れるところをふるさととは呼ばない」…全くいちいち腹にコタえる台詞の清々しさよ。

無地白紙の人へ作句上の発想のヒントを伝授し、句会の実践法を中継風に披露、そして、読者から寄せられた人生相談に俳句で回答して最後に、「なんとなく憶えてしまって、もう一度読みたくなる」「惚れた」句を芭蕉を皮切りにずらり。至れり尽くせりではないか。

「いい天気だな。入院しよう」の挿入句がおかしい著者の最新句集「見えない傷」(春陽堂書店)と併せてお薦め。

(居島一平/芸人)