岩崎宏美『ロマンス』は際立つ歌唱力で「アイドル=歌が下手」を払拭した金字塔的名曲

魅力的な声そのものを戦略に

さらには筒美京平による、そんな声質を十分に活かしきったメロディーやアレンジも貢献しています。歌唱力があるからと、安易にバラード路線をあてがわず、この快調なディスコチューンを選択したのがよかった。

加えて、実に細かな話になりますが、エンディングの歌い方も、売り上げに貢献したように思います。

トータルで3分20秒ほどの曲ですが、3分5秒のところで「♪席を立たないで」の「な」が、そこまでのメロディとは違ってすっと上がる。あの部分が実にたまらない。

具体的には「♪(席を)立たないで」が、それまでは「♪ミソミレミ」(キーはDm)だったのが、そこでは「♪ミソラソミ」になる(サブスクなどでぜひ確かめてください)。

このように「な」がすっと上がることで、売上枚数もプラス10万枚ほど、すっと上がったのではないでしょうか。

70年代中盤、戦略と計算がぶつかり合う群雄割拠のアイドル界の中で、声そのものという実に原点的な魅力で、他のアイドルを超える売り上げを獲得した―それが、この『ロマンス』なのでした。

「週刊実話」11月6日号より

スージー鈴木/音楽評論家

1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。