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『弔辞』(講談社:ビートたけし 1000円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

『弔辞』(講談社:ビートたけし 1000円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊 
『弔辞』(講談社:ビートたけし 1000円)

「俺たちはコント55号さんとツービートさんには本当に感謝しなきゃいけないの。芸人なんて歌手の前座で営業行ったら、楽器や荷物と同列だったんだもん。それがあの人たちのおかげでギャラと扱いが変わったんだから」とは関東演芸界の重鎮・東京ボーイズの仲八郎氏がしみじみ語った台詞だ。

80年代初頭の漫才ブーム以来、40年以上の歳月を芸能界の第一線で走り続けていまだに頂点に君臨する著者。かつて弟子の軍団を率いて襲撃した週刊FRIDAYの版元である、講談社からこんなタイトルの本とはキツい洒落だが、一方で「そりゃあこの人物の弔辞なんて本人にしか書けないだろ」と妙な納得もしてしまう。

社会一般の権力構造を無意識に変えた

権威を疑い、訳知り顔で偉そうに上から批評してくる知識人にことごとくかみつく彼の出現は芸能界だけにとどまらず、社会一般の権力構造を無意識に変えた。その存在の巨大さは歴史性において信長や秀吉といった固有名詞に、もはや匹敵する(なにしろ先の天皇在位30年を祝う式典の場ですらボケてみせたのだから。そんな芸人は空前絶後だろう)が、目下のところ〝誰も傷つけない笑い〟ばかり歓迎され日常の立ち居振る舞いにもポリコレ的監視の目が光るご時世。昭和と平成という時代の寵児だった著者から、自身と時代とに向け放たれる生前弔辞に耳を傾けてほしい。

3年前の独立騒動を経て久方ぶりに新作映画『首』が、コロナ厳戒下にもかかわらず撮影に入ったとか。黒澤明が70歳で『影武者』を撮り、75歳で『乱』を完成させたように、古稀を超えた映画監督北野武の時代劇が是非見たい。『アウトレイジ 最終章』が遺作となっては、ちと寂しいもの。無事のクランクアップを祈らずにいられない。

(黒椿椿十郎/文芸評論家)

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