レトロ過ぎる外観が目を引く昭和遺産 大師前『赤ちょうちん』

「肉豆腐」600円。注文してから目の前で作り始める肉豆腐がう まい。「愛情を込めているからね」とのこと。
西新井大師の玄関として知られる大師前駅から数分歩くと「伊勢末商店」と書かれた看板が見える。
向かって左側の扉が伊勢末酒店で、右側の扉が居酒屋。年始は西新井大師の初詣客のために甘酒やおでんも売り、繁盛している。
昭和遺産と呼ぶにふさわしい建物に赤ちょうちん。その横に「おかん酒400円」と書かれた紙が張ってあるから、ここは飲み屋らしい。

まだ昼すぎ。小さな扉を開けると、細長い店内に先客が2人。
店内には独特の静かな時間が流れる。
客も店主も時代劇の再放送に夢中だ。客の前を横切り、座布団が敷かれた席に座って、ハイボールをオーダーする。

奥に消えた店主がグラスを手に戻ってきたのは2分後。ずいぶんのんびりとした時間が流れている。
自家製のぬか漬け(400円)は漬かり具合も塩加減も絶品だ。ハイボール(400円)とともに。
電気工をしていたという隣の客は「明日は年金支給日だ」と心なしか声が弾んでいる。どうやら明日もここに来るらしい。

店を切り盛りして半世紀という84歳の店主は「医者にかかってばかりで、いつまで店を続けられるか」と弱音をこぼす。
店主は84歳。大師様の縁日がある日は煮込みも出す。
まだまだ続けてほしいと思っても明日は我が身なのだろう、常連客は何も言わない。
ビートたけし、吉田類など店を訪れた有名人のサインや写真が多数、飾られている。
3杯ほど飲んでから席を立つ。気が付けば店には私一人。「また来てね」と笑顔で言われ、次はいつ来られるだろうと思いをはせた。
『赤ちょうちん』
東京都足立区西新井1-5-4
営業時間:13時~18時
休み:不定休 

「週刊実話」2025年3月20日号より
※情報は取材当時のものです

撮影・文/キンマサタカ 【男がほれる酒と肴「ホの字酒場」】アーカイブ