
今もファンの間で話題になることがある長州力と橋本真也の通称「タココラ問答」。当時、長州と橋本はそれぞれの団体を率いていたが、珍妙なやり取りの背景には「新日本プロレス時代からの因縁が再燃した」という事情があった。
プロレス界においてはさまざまな因縁が流布している。そんな中でも「ガチの不仲」とされていたのが、長州力と橋本真也の関係だ。
2003年11月18日、プロレスリングZERO-ONE時代の橋本が記者会見を開いていた際、突然、長州が現れて「何がやりたいんだ、コラ!」と突っかかり、この時に両者とも「ナニコラ!」「タココラ!」を連発して罵り合ったことから通称「タココラ問答」または「コラコラ問答」などとも呼ばれる一件。
その数日前からスポーツ紙の紙面を通して、互いに批判の応酬を繰り広げ、これに業を煮やした長州が乗り込んできたもので、何も具体的な言葉のないままにド迫力で怒鳴り合う不条理さから〝おもしろ場面〟としてパロディーにされていたりもする。
ただ、それ以前から長州と橋本は、折に触れていがみあっていた。2人の不仲のきっかけといわれるのが、長州による「橋本への制裁事件」だ。
長州がジャパンプロレス勢とともに新日本プロレスへ復帰したときのこと。それまで団体を支えてきた人間よりも、出戻り組が良い扱いを受けることに橋本は激怒。ヒロ斎藤と試合中に激しい蹴りを加え、ヒロはこれを防御する際に手の小指を骨折してしまった。
すると、これに怒った長州とマサ斎藤が、控室で橋本にリンチさながらの制裁を加え、殴られて顔を腫らした橋本の様子は当時の専門誌にも取り上げられている。
「査定」で揉める現場監督と選手
ただし、これはヒロを負傷させた橋本に非があること。長州もやり過ぎの面はあったかもしれないが、そこは橋本も割り切っていたのではないか。
むしろ橋本が不満を感じたとすれば、その後に現場監督となった長州が、直弟子の佐々木健介を重用したことだろう。
また、小川直也との不穏マッチの際、小川の後見人であるアントニオ猪木のペースで物事が進み、長州が明確な態度を示さなかったことにも、橋本は不満を募らせていたに違いない。
この頃、長州は現場監督に加えて「選手の査定」にも関わっていたとされ、その扱いが自分の年俸に反映してくるとなれば、橋本としてもいろいろと思うところはあったはず。
プロレスラー同士の遺恨というよりも一般のサラリーマンが上司に抱く不満と同じ類いのものではあるが、結局どんな世界においても一番のトラブルのタネは、案外そういうところにあるものだ。
さらに、不仲の決定的な理由として、後年に橋本が口にしていたのは「ZERO-ONE独立」に際しての悶着だ。
「負けたら即引退!」の小川戦後に復帰した橋本は、新組織「ZERO」の立ち上げを表明した。これには当時の社長だった藤波辰爾の後押しがあったようで、おそらくは新日の別動隊として、自主興行や他団体との交流を想定したものだったろう。
しかし、橋本が独自に「プロレスリング・ノア」との交流戦の話を進めてしまったことで、現場監督の長州と大きな齟齬が生じることになる。
意外とアドリブに弱かった橋本真也
その後、どんな話し合いがあったかは定かでないが、最終的に橋本は新日の契約を解除されて独立することになったわけだから、それだけの激しいぶつかり合いがあったのは違いあるまい。
この騒動を脇で見ていた猪木が、面白がって「長州と橋本を1・4(2001年の東京ドーム)で対戦させろ」と言い出し、これが伝説の〝ドラゴンストップ〟につながっていくのだが、ともかく橋本としては「理不尽に新日を追い出された」と、長州を恨みに思うようになったという。
ただ、長州としては特に橋本を嫌っていたわけではなく、「面倒くさい後輩」というぐらいの感覚ではなかったか。例の「タココラ問答」の映像を改めて見れば、意外と長州が献身的であることに気がつく。
長州の迫力に圧倒されてまともに喋ることのできない橋本に代わり、「噛みつきたいのか、噛みつきたくないのか」と今後の対戦を匂わせ、やっと橋本が「おまえ死にてぇのか」と絞り出すと、「おまえ、いま言ったな?」としっかり確認するように受け止めている。
04年2月の決着戦でも、長州はここ一番にしか出さない雪崩式ブレーンバスターを披露。結果的にはそれで橋本が肩を負傷し、消化不良の凡戦に終わったが、長州自身はかなりやる気を見せていた(結果はミドルキックから片エビ固めで橋本の勝利)。
一方の橋本は問答の最中も顔色が青白く、「時は来た!」のときと同様、意外とアドリブに弱いところを見せてしまったのだった。
《文・脇本深八》
長州力
PROFILE●1951年12月3日生まれ。山口県徳山市(現・周南市)出身。身長184センチ、体重120キロ。 得意技/サソリ固め、リキラリアット、垂直落下式バックドロップ、ストンピング。
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