SNS世論=リアル世論? 参院選で浮かび上がった“ネット民意”の重み

参政党・神谷宗幣代表 (C)週刊実話Web
2025年夏の参議院選挙は、SNSが世論を作った初の選挙だったのかもしれない。

先月行われた参院選の選挙結果で、SNSに関する興味深い事実が判明した。これまでネット世論と実際の民意には乖離があるとされていたが、両者が一致したのだ。

日本経済新聞は8月3日、ソーシャルメディア上のデータ解析を行う世界最大規模のデータセット企業、アメリカ・Meltwaterのツールを用いた分析結果を掲載した。

分析手法は、選挙期間中にX上で、各党名を含む投稿が「否定的」「中立」「肯定的」のどれに当てはまったかというものだ。

これに参院選での得票増減数を照らし合わせたところ、「肯定的な投稿が多かった政党は得票を伸ばし、否定的な投稿が多かった政党は得票を減らした」という相関関係が浮かび上がった。

今回の選挙において、野党で最も多くの比例票を獲得したのは国民民主党。その数は約762万票と、2022年の参院選から約446万票も増加している。

そしてXの解析結果では、国民民主党に好意的だった投稿は2位となる約17%。SNSでの評価が、議席増に繋がっていることが分かる。

国民民主に並び、今回の選挙で最も躍進したのは参政党だろう。

参政党は前回から約566万票も増やし、比例で約743万票を獲得しているが、こちらもXの解析結果は、好意的な投稿が12%ほどと高い数字だ。

一方、今回の選挙で惨敗した自民党のデータを見ると…。

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ネット世論の時代に メディア化したSNS 

自民党が今回の選挙で獲得した比例票は約1281万票で、前回参院選から約545万票も減らしている。 

そしてXの解析結果は、肯定的な投稿が約6%。約5%の立憲民主党に次ぐ低さだった。 

SNSで好評であれば票が増え、不人気であれば票を減らす…今回の参院選では、選挙とSNSの関係がこのように示されたといえる。 

こうした現象は、アメリカですでに可視化されていた。2022年、当時ドナルド・トランプの熱烈な支持者だった実業家のイーロン・マスクがTwitterを買収。 

理由は、運営方針を改めて保守的な言論空間にしたかったほか、Twitter社が永久凍結していたトランプのアカウントを復活させる目的があったというのが定説だ。 

これによってトランプのアカウントは復活し、MAGA派や保守的な投稿がXに増殖。2024年の大統領選でトランプが4年ぶりの再選を果たした。 

アメリカで保守系の政治評論家として知られるデービッド・フレンチは昨年、ニューヨーク・タイムズ紙で「Xが右派の大衆に訴える中心的手段になった」と分析している。 

一方、日本では、ネット世論は現実の世論と必ずしも一致しないとも囁かれていた。 

昨年には、地方選挙ではあるが、小池百合子がSNSで猛批判を浴びながら都知事選で圧勝。古くは2009年にも、当時の民主党が匿名掲示板で異常なまでにバッシングされながら、地滑り的大勝で政権交代を果たした。 

政策課題においても、SNSに排他的な意見が相次ぐ反面、各世論調査では経済政策・生活対策などが上位というのがこれまでだった。 

ところが、今回の選挙では外国人問題が急浮上。SNSが政治を動かすこととなった。 

SNSからソーシャルメディアへ “共感空間”の政治化 

かつてのインターネットが掲示板文化のような匿名・自由な議論の場だったのに対し、現在のSNSはソーシャルメディア=自己表現と共感の場へと変容した。 

この変化を支えているのが、AIによるパーソナライズアルゴリズムである。 

気に入った投稿に「いいね」を押し、共感できるアカウントをフォローし、同じ意見がタイムラインに並ぶ。こうした環境の中で「自分と同じ意見=世間の総意」だと錯覚しやすくなる。 

これはエコーチェンバーやフィルターバブルと呼ばれる現象であり、特に政治的テーマにおいてその影響は大きい。さらに問題なのは、それが正義感という形で表出することだ。 

政治的な意見に限らず、フィルターバブルの中にいることで自分の正しさに確信を持ったユーザーは、異なる意見に対して攻撃的になり、“正義棒”で他者を叩く構造が日常化している。 

各政党は今後、今まで以上にネット発信に力を入れるだろう。それは、ネット空間でこれまで以上に政治の話題が増えることを意味する。 

ただ、分断や対立が激化する今日のネット空間において、政治の話題が増えることは荒れる機会が増えることも意味する。 

SNSは世論を映す鏡ではなく、拡声器や増幅装置になっている現在、政治はもはやネット抜きでは語れない。 

政党の広報活動、候補者の発信力、フォロワー数、ハッシュタグ戦略が民意を形成するプロセスそのものになっている。 

これはポスト・メディア時代の民主主義の在り方を問い直す問題でもあるだろう。