早見優=ナンシーなのか?『夏色のナンシー』大ヒットの秘密を徹底解剖

早見優は「芸能界一美しい年の取り方」をしているのかも

そんな『夏色のナンシー』の歌詞ですごいのは、「ナンシー」が誰なのか、一切説明されないまま、ただ「夏色のナンシー」というフレーズだけが放り出されることです。

だから、歌っている一人称、つまり「早見優=ナンシー」なのか、三人称のナンシーがいるのか分からない。というか、ナンシーがほとんど記号のようになっているのです。

でも、そこがいい。

つまり、ナンシーという記号によって、楽曲全体が意味やストーリーから解放された結果、スカッとした「夏色」の爽快感だけが読後感として残る。

だからコカ・コーラのCMにぴったりだった。そして、やれ「ぶりっこ」だ「ツッパリ」だ「セクシー」だといった、当時のアイドルを縛るステレオタイプな「意味」から解放された、早見優のひたすら爽やかなイメージにもぴったりだった。だから広く支持されたと考えるのです。

その後、私はお仕事で、早見優さん本人と何度かお会いする機会に恵まれました。生の彼女は、実にポジティブでパワフルで、人生そのものをエンジョイしているような方でした。

前回、彼女のことを「世界一美しい生きもの」と書きましたが、そんな彼女は今、「芸能界一美しい年の取り方」をしているのかも、と思ったりもするのです。

「週刊実話」8月7日号より

スージー鈴木

音楽評論家。1966年(昭和41年)、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。