堤真一×山田裕貴で伝説の舞台を映画化 『木の上の軍隊』は息が詰まるような緊迫感が味わえる

『兵隊やくざ』シリーズが思い起こされる

樹上で始まった潜伏生活での恐怖、飢え、病い、極限下での上官と部下の関係性。息が詰まるような緊迫感に説得力があります。

また、そんな悲惨さだけでなく、米軍が残していったポルノ雑誌をちぎって分け合うなど、こんな状況下でもあるユーモアや人間味を加えることで120分を飽きずに見ることができました。

「戦争のバディもの」というと、昭和40年代に大ヒットした勝新太郎と田村高廣の『兵隊やくざ』シリーズが思い起こされます。

本作では、この『兵隊やくざ』に匹敵するくらい、究極の状態でも厳格な上官と部下の関係性は失われません。

ところが、戦後80年の今、かつてあった上司と部下の関係は完全に失われているように思います。

というのも、自分が選評委員として長く携わらせていただいている『サラリーマン川柳』(’22年より『サラっと一句! わたしの川柳コンクール』に名称変更)でその傾向が顕わになっているんです。

かつては、上司が新人類の部下を嘆く作品と、部下が身勝手な上司を嗤う作品が定番でした。

それが、何かとパワハラ、モラハラと騒がれるようになった今、上下関係を詠んだ川柳はパタッと投稿されなくなっています。

本作は、絶滅寸前の上下の規律も描いてくれている貴重な作品なのかもしれません。

⽊の上の軍隊
監督:脚本:平一紘
出演:堤真一 山田裕貴
配給:ハピネットファントム・スタジオ
沖縄先⾏公開中/7⽉25⽇(⾦)新宿ピカデリー他全国ロードショー

「週刊実話」7月24・31日合併号より

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やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。